それが秋の東京でこんなにもデザインイベントが行われるようになった背景には、国内外のデザイナーと交流の深かったライフスタイルショップのオーナー社長達や、世代交代をして時代とともに変化しながらもイベントを続けてきたディレクター陣の頑張りがあったのです。その背景をご紹介します。
フリーのデザイナーは日本で発表の場が殆ど無かった90年代前半まで
90年代前半までの日本では、フリーのプロダクトデザイナーが発表する機会はほとんどなく、大半はインハウスデザイナー(企業内デザイナー)が企業の新作発表会として商業ベースの展示会を手がけるのが主流でした。一方で既にその頃からヨーロッパでは、「今年はあのメーカーは、誰を起用するのだろう?」といった具合に、デザイナーを切り口とした展示会を開いたり、デザイナーも自身の世界観を示す為に意欲的な作品を発表したりと、「デザイン」自体(プロダクトやアイデアともに)を輸出する基盤が整っていました。
その結果、おしゃれな家具と言えば「イタリアンモダン」といった画一的な価値観が日本のインテリア業界にはありました。イタリアンモダン家具や、イギリスのクラッシク家具の高価な輸入品がもてはやされていた、いわゆるバブルのなごりの時代です。
文化的な複数のデザインイベントが立ち上がった90年代後半
1998年から2001年まで表参道中心に開催されていた、文化的なデザインイベントの起点とも言えるHAPPENINGは、国内外で個人で活動しているデザイナーが既存のショップで展示会を開き、気に入った展示を参加者がポラロイドで撮影して地図に貼り「自分だけのカタログを作る」参加型のイベントでした。日本にいち早く若手デザイナーや新しいレーベルの最新デザインアイテムを紹介しているショップTRICO代表の佐伯氏が中心となって運営していました。2000年から2005年まで開催していたTOKYO DESIGNER'S BLOCKは、エリアを表参道、渋谷、代官山、六本木と広げて、IDEEのファウンダー黒崎氏や、E&Yファウンダーの中牟田氏が中心となって実行委員会を作り運営していました。各国の大使館を巻き込んだ国別の展示や、テーマを決めた展示会を、街中の倉庫や工事前の土地、駐車場等にちりばめ、既存の店舗やギャラリーに有名無名に関わらずお見合いをするような方法でデザイナーの作品を展示しました。
夜まで楽しめるように、エリア内のクラブカルチャーと組んで、朝から晩まで地図を持って宝探しをするような超大型のイベントに発展していきました。また自分達のプロダクトを4月のミラノ、9月のロンドンでの展示会を経て10月の東京に最新のデザインが流れてくる仕組みを模索していたのもこの頃。
現代のように「写メ撮って、すぐにシェア」できる状況とは全く異なり、紙媒体のメディアが主な情報源でした。なかでも建築・デザイン・ファッション・カルチャーを縦断するcasabrutusの創刊は非常に象徴的なものでした。
その後、DESIGNTIDEを軸とする「事前審査通過デザイナー参加型イベント」がキュレーションを施された会場内で展示されるようになり発表されるデザインの質は格段にレベルアップしました。
Tokyo Designer's Block2000@西麻布交差点 90年代後半には、HAPPENINGや東京デザイナーズブロック等、家具ブランドのオーナー社長が面白い仕掛けをしようとしていた時代があった。
惜しまれながら2012年に解散したデザインタイドのディレクター陣が中心になって開催される2つのデザインイベント、「SHOWCASE」と「Any Tokyo」の2015年の展示内容も気になります。またオリンピックに向けて過去から私たちが学ぶことがあるのではないかという取り組みも、若い世代にこそ見てもらいたいです。
2013年に開催されたSHOWCASEの1回目は、日本のデザイナーや作家8名を厳選した展示会
2013年に開催されたAny Tokyoの1回目は、国内外のクリエイター16名を厳選した展示会
お散歩がてら、出かけてみませんか。何気なく展示会で見て印象に残ったものや、そうとは知らずに普段から使っているものが、未来のスタンダードを作るかもしれない。そんなデザインの歴史に立ち会う喜びを私たちの日常に与えてくれるきっかけになるかもしれません。