心が豊かな友人に恵まれている幸せ
年収が少なくても幸せに生きるコツ(写真はイメージです)
――自身の暮らしぶりを書かれた『年収100万円の豊かな節約生活術』が話題になりました。そもそも本を出されたきっかけは、なんだったのですか?
山崎寿人さん 書籍の担当者は、実は中高の同級生なんです。彼を始め、中高の仲間とはずっと付き合いが続いていたんですが、外で飲むことが多いので、僕としては経済的に厳しい。だから「ウチで飲もうよ」と提案したんですね。自宅に招いたときにいろいろと節約料理を振舞ったら驚かれ、「どうしてこんなものが作れるの?」「どうやって生活してるの?」といろいろ興味をもたれたのがきっかけ。それで、「本にしてくれない?」という話になったんです。
――著書にも手料理がたくさん載っていましたが、とても節約レシピとは思えないほど本格的でしたね。ご自宅で友人の方々に料理を振舞うことも多いとか。
山崎 旧友やその家族が集まって、ことあるごとに宴会をしています。昼から深夜まで続く長丁場の時もあるので、なかには枕を持ってくるヤツまで(笑)。この間は、10畳ひと部屋に総勢18人がぎゅうぎゅう詰めになって飲んでましたね。
以前は月1くらいのペースで宴会をしていたのですが、本を出してからは頻度が高まり、しばらく週1の時が続いて、正直大変でした。次の宴会までに冷蔵庫を空けないと食材が入らないので、宴会の余りものを消費するためだけの食事がひたすら続くなど、社畜ならぬ宴畜状態でしたよ(笑)。ようやく最近、ペースを抑えて家計も生活も元に戻ってきたところです。
――周りに自然と人が集まるのは、ご自身の人望でしょうね。“人との繋がり”は、お金がなくても幸せに過ごすための大切な要素だと思います。
山崎 僕は人と話すのも飲むのも好きなので、彼らといると退屈しません。特に中高時代の仲間とは、月に何度も会うほど密度が濃いんです。あと数年もすれば、みな還暦をすぎるので、さらに密度が増すのでしょうね。
ほとんどが勤め人ですが、そうじゃない僕に対しても非常にフラット。「お前はお前で幸せに頑張っているから、俺は俺で頑張る」というスタンスです。互いの価値観を受け入れているから心地良いし、ラク。心が豊かな友人に恵まれていることは、非常に幸せなことだと思っています。
最大のネックは“欲”のコントロールだった
――この生活をする上で、ネックになったことは何でしたか?山崎 「欲をどうするか」というのは、自分のなかでも大きな問題だったんです。昔は車も持っていたのですが、この生活に移行するときに経費がかかるので処分しました。たいして車に興味があったわけではないけれど、運転することは好きだったので、手放す時はやっぱり「ああ…」と思いましたよ。自分の生活や人生がレベルダウンするような感じを抱いたのも確かです。
――世代的には、バブルも経験されていらっしゃいますよね。消費意欲の強い時代でした。
山崎 そうですね。僕は食道楽で、バブルの時には散々美味しいものを食べ歩きましたから、やっぱり時々さみしく感じることもありましたよ。そんな思いを克服するために、欲というものと向き合って、どうすればそれを減らせるか考えました。行きついたのは、我慢することでも宗教的な悟りでもなく、資本主義というものを俯瞰で見ることでした。
モノやサービスをたくさん作ってたくさん売る。それをどんどん拡大していくのが資本主義です。当然、自分がその輪のなかに入れば、良いモノが欲しいし、もっと稼ぎたいという価値観になる。ですから、少し距離を置いて眺めるくらいのスタンスをとるのがいい。そして、阪神淡路大震災で経験したある出来事も、僕の価値観を揺さぶりました。
物欲にとらわれたら、「ゴミ候補生」と思う
――どういう体験だったのですか?山崎 友達が関西で廃棄物処理の会社をやっている関係で、震災直後に手伝いに行ったのですが、皆さんご存知の通り、街中が壊滅的な状態でした。家も家具も無残に崩れ、瓦礫の山になっている。モノで散乱した現場とごみ処理場を延々と往復しながら、“大金をかけて作ったものも、一夜にしてゴミになってしまうんだな”とやるせない気持ちになりました。「結局、オレらってゴミになるものを買っているんだな」とショックを受けたんです。
それ以来、物欲にとらわれたときは、「これはゴミ候補生なんだ」と思うようにしました。欲しいと思った瞬間に“ゴミ候補”と、自分で自分に言い聞かせ、さらにゴミに出される画像を思い浮かべて、脳に刷り込みをしていく。すると、本当にそれにしか見えなくなるんですね。つまり、脳に対して“今の自分”に大切なことを上書きして学習し直すわけです。そんなことをしているうちに、次第に欲をコントロールできるようになりました。
★次に、一ヶ月の収支と節約法についておうかがいします
教えてくれたのは…
山崎寿人(やまさき ひさと)さん
1960年生まれ。東京大学経済学部卒業後、大手飲料メーカーの広報マンとして5年にわたり活躍するが30歳で退職。その後日本新党の立ち上げにかかわり、小説家を志したことも。20年以上定職につかず、自分で豊かな生活をデザインする自由人として暮らす。著作『年収100万円の豊かな節約生活術』はベストセラーに。
取材・文/西尾英子