マンチェスター・Uに居場所はない?
所属チームの事情に加えて、他クラブの補強が香川の立場をより微妙なものにしている。
今シーズンからチームを率いるルイス・ファンファール監督(63歳)の構想で、香川の優先度は高くない。中盤の攻撃的なポジションでは、スペイン代表ファン・マタ(26歳)が重用されている。
さらに加えて、他クラブの補強が香川の立場を微妙なものとする。マンチェスター・Uと並ぶ欧州屈指の強豪レアル・マドリードだ。ポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウド(29歳)やフランス代表FWカリム・ベンゼマ(26歳)らを擁するスーパースター軍団に、新戦力としてハメス・ロドリゲス(23歳)が加わったのだ。
移籍は玉突きのようなところがある。誰かが入ってくれば、同じポジションの誰かが弾き出される。
ブラジルW杯の日本戦でゴールをあげ、大会得点王に輝いたコロンビア代表の攻撃的MFが移籍してきたことで、レアルはアルゼンチン代表MFディ・マリアを放出する。
ブラジルW杯で活躍した彼は、どのクラブにとっても魅力的な“商品”だ。複数のクラブが獲得に名乗りをあげたなかで、豊富な資金力を持つマンチェスター・Uが契約にこぎつけたのだ。
昨シーズンのプレミアリーグで6位に終わったマンチェスター・Uは、欧州のクラブ王者を決めるチャンピオンズリーグ(以下CL)に出場できない。公式戦の試合数が例年よりも少ないため、たくさんの選手を抱え込む必要性がないのだ。
そもそもファンファール監督は、チームを立て直すために戦力の見直しを進めてきた。事実上の戦力外通告を受けた選手もいる。ポルトガル代表FWナニは、母国のスポルティング・リスボンへ移籍した。ディ・マリアの加入によって、香川の立場はさらに厳しくなったと言わざるを得ない。
複数クラブが香川に関心を寄せる
マンチェスター・Uで不遇をかこっている香川には、古巣ドルトムント(ドイツ)やイタリア・セリエAのナポリ、スペインのアトレティコ・マドリードらが興味を示していると伝えられる。ドルトムントとアトレティコ・マドリードはCLに出場し、ナポリも欧州各国のクラブが集うヨーロッパリーグに出場する。いずれも欧州で指折りの強豪だ。国内外でタイトル獲得を視野に入れる。保有戦力を使い分けながら複数のコンペティションを消化するのはもちろん、主力のケガや出場停止などへの備えとしても、レベルの高い選手はひとりでも多いほうがいい。
3チームのいずれかのユニフォームを着ることになっても、その他のクラブの一員となっても、移籍すれば新たな競争が待っている。シーズン開幕前の準備期間をマンチェスター・Uで過ごした香川は、移籍先の戦術やチームメイトの特徴を、これから理解していかなければならない。新天地を選ぶことですぐに状況が好転する、と考えるのは早計だ。
「世界の強豪と当たったときに、相手に脅威を与える選手やチームの雰囲気というのは、まだまだ……そこをどうやってつかみ取るのかは、一人ひとりが厳しい環境でやって、所属クラブでつかみ取っていくしかない」
ブラジルW杯を終えて、香川が明らかにした決意である。イングランド代表FWウェイン・ルーニー(28歳)やオランダ代表FWロビン・ファンペルシー(31歳)らが顔を揃えるマンチェスター・Uは、香川が求める「個のレベルアップ」にふさわしい環境だ。しかし、実戦から遠ざかってしまうデメリットは看過できない。
ファンファール監督は香川に大きな関心を寄せていないが、監督によって好みが異なるのは当然だ。指揮官の交代で出場機会を失うのは、どんな選手も背負うリスクである。
活躍できるクラブへ移籍するのは、プロフェッショナルとしてあるべき決断だ。ドロップアウトではない。興味を示すクラブが存在するのは、香川が欧州で評価されているしるしである。コンスタントにピッチに立つことを最優先に、自分なりのキャリアをデザインしていってほしいのだ。