地政学的リスクの高まりで米国債が買われた!
それにしても、なぜ、米国債の金利が低下したのでしょうか。「米国では、雇用拡大の勢いがつき始めたことに加え、インフレが加速しています。しかも、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は10月までに米国債と住宅ローン担保証券(MBS)の買い入れ、つまりQE3(量的緩和政策政策第3弾)を終了するとしています。通常ならば、雇用拡大やインフレ、量的緩和政策の終了は、金利上昇(=国債価格の暴落)につながるはずです。それにも関わらず、米国10年物国債の金利は2.5%を割り込んでいます。この背景にあるのは、ECB(欧州中央銀行)のマイナス金利導入によって、ユーロ売りドル買い需要が起こり、その資金が米国国債に向かっていること、さらに地政学的リスクの高まりと、各国中央銀行の米国債依存していること(=他に代替対象がない)です」
ECBは2014年6月にマイナス金利を導入しました。その結果、銀行は保有しているユーロを中央銀行に預けていると、逆に金利が取られてしまうので、ユーロを他の通貨に換える必要に迫られます。このユーロ売りの資金が米国の国債に流れ込み、米国では量的緩和の縮小を行っているにもかかわらず(国債を買い付ける資金が減っているのに)米国の国債価格は下がらず、金利が低いままの状態が続いています。これは米国経済に大きなプラスとなります。
加えて、ウクライナやパレスチナの問題、オバマ大統領のイラクでの空爆承認など、世界が混乱しているときには、多くの投資家が株式などのリスク資産を敬遠し、米国債のような安全性が高い資産を保有する傾向があります。債券は、価格が下がると金利が上昇し、価格が上がると金利が下がることから、米国債の需要が高まるなか、金利が低下しているのです。
「また、新興国の中央銀行は、欧米の通貨や国債、なかでも米国債を大量に保有しています。特に中国は、人民元を安く誘導し、輸出競争力を高めるために、米国債を大量に購入しています。事実、中国による米国の中長期国債の保有残高は、2014年1月から5月に1072億1000万ドルも増えています」
世界の債券投資家が、オバマ大統領の元経済顧問のローレンス・サマーズ氏が主張する「景気の長期停滞論」を支持していることも影響しているといいます。
「これは米国経済が、かつてほどの速さでは成長できないという意見です。それは米国の潜在成長率(その国の中長期的な成長な成長力)が低下することであり、実質金利は実質経済成長率に近い水準に落ち着くと考えられることから、米国の長期金利も低下すると考えられます」
さまざまな要因、思惑から米国債が買われて、米国の金利が低下した結果、円安が思うように進まず、世界的に株高であるにもかからず日本株は軟調な推移となったのです。