見直される腸内細菌

母親と子供

母親との接触が、子供の腸内細菌の成立に非常に重要と考えられています

食物繊維は腸内の悪玉菌を減少させたり、有害物質を取り除く働きを持っています。日本では食生活の欧米化により、食物繊維が減って動物性脂肪が増えたため、炎症性腸疾患の数も増加してきています。食物繊維中心の食事をしていた1960年頃までは、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患はほとんどありませんでした。

また免疫は離乳期までに成立するため、それまでの環境が子どもの腸内細菌の成立に大きく影響すると考えられています。

自然分娩では、産道を通ることにより母親の細菌叢(さいきんそう)を浴び、母乳を飲むことによって、人体に良い影響を与える微生物(プロバイオティクス)を取り入れます。その他、母親との毎日の生活を通しても、母親の持つ細菌叢の影響を受け続けます。こうしたことから、帝王切開で生まれた場合や人工乳栄養、抗生物質を授乳期に使用した場合には、子どもの腸内最近のバランスが崩れ、炎症性腸疾患の発症率が高くなる可能性があると言われています。

急性腸炎で腸内細菌のバランスが崩れた場合、その後過敏性腸症候群を発症する割合が比較的高くなることも明らかになっています。こうしたことから、過敏性腸症候群の病因としても腸内細菌が注目されてきています。

糞便移植が腸内細菌を整える?

腸の図

他人の糞便を注入することで腸内細菌のバランスを整えます

2013年、「New England Journal of Medicine」という医学誌で、オランダのグループが「糞便移植」(他人の糞便を腸内に注入する移植治療)を行いクロストリジウム・ディフィシル腸炎を根治したということを発表しました。

クロストリジウム・ディフィシル腸炎とは、抗生物質を使用することにより起こることが多い腸炎です。下痢・腹痛・発熱などの症状を認め、悪化した場合は敗血症など重篤な合併症を引き起こすこともあり、また院内感染の原因としても問題視されています。クロストリジウム・ディフィシル菌自体は、健常成人の約5~10%が保有している菌です。

抗生物質は悪い菌を殺す力がありますが、腸内の善玉菌にもダメージを及ぼします。抗生物質により腸内細菌のバランスが崩れると、腸内のクロストリジウム・ディフィシル菌が勢力を伸ばします(菌交代現象)。そして増えすぎたこの菌が産生する毒素により、腸炎が引き起こされます。

理論的には、腸内細菌のバランスが戻ればこの菌の勢力が弱まり腸炎が治ることになります。つまり抗生物質で失われた腸内細菌を、糞便移植などで新たに取り入れて勢力を抑え込めばいいのです。

糞便移植がクロストリジウム・ディフィシル腸炎に有効であったという結果は多数報告されており、欧米では重症化するこの腸炎に対して標準治療になるともいわれています。また炎症性腸疾患など、その他の腸内細菌バランスが原因とされる疾患に対しても、糞便移植の効果が期待されています。

糞便移植の臨床研究としては、今年の3月下旬に慶応大学病院で潰瘍性大腸炎の患者さんに対して1例目の臨床試験が行われました。臨床試験の対象は、1例目の潰瘍性大腸炎の他、過敏性腸症候群や難治性感染症、腸管ベーチェット病となっています。今年の6月からは順天堂大学病院でも臨床試験が開始されています。こうした難治性腸疾患の新たな治療法により、近い将来、これらの疾患も難病ではなくなる日が来るかもしれません。

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