最後の空冷ボクサーツイン
ストリートの域を超えた走行性能
このR nineTのもうひとつのポイントは、“最後の空冷ボクサーツインエンジン搭載モデル”であること。シリンダーヘッドが左右に突き出したデザインの水平対向2気筒エンジン、通称“ボクサーツインエンジン”は、1923年に登場した初期モデル R32 に搭載されて以来、90年以上の歴史をBMWモトラッドとともに刻み続けているエンジンなのです。昨年デビューした新型の R 1200 GS よりエンジンが水冷化し、さらなる進化を遂げようとする一方、“偉大なる遺産”でもある空冷ボクサーエンジンの最後にふさわしいモデルを作ろうと、この R nineT 開発プロジェクトが組まれたというわけです。
かなりマッシブな印象が強いフューエルタンクとエンジン部分、そこから伸びるシャープなシート&リアフェンダーというこの組み合わせ、ちょっと日本では馴染みのないスタイリングだと思いますが、ヨーロッパでの流行に則った“今風”のフォルムです。何年か前、ディビッド・ベッカムがバイクに乗っている姿をゴシップ誌で報じられたことがあるのですが、そのとき彼が乗っていたコンフェデレイト モーターサイクルズ F131 ヘルキャット コンバットというバイクも、これとまったく似たスタイルのものでした。ドゥカティ ディアベルもこれに近しいモデルですね。
実際に乗ってみて印象的だったのは、“ストリートの域を超えた高い走行性能”を備えていること。そのスタイルを見れば、ロングツーリングをイメージしたモデルでないことは分かります。「カスタムで自分だけの一台を」というメーカーからの提案を考えると、スリリングなワインディングや街乗り(ストリート)でこそR nineTの魅力を味わえる場所と言えるでしょう。高性能サスペンションやブレーキなどと備えているあたり、かなりタイトな走り方にも耐えられる仕様であることは伺えます。普段ハーレー スポーツスター(XL1200R)に乗る僕の印象としては、愛車だとしっかり減速して飛び込むコーナーでも、そこそこのスピードで難なくクリアできるほど。ノスタルジックなバイクとは一線を画したハイスペックな現代版ネイキッドバイクですね。
R nineTがくすぐってくるポイントは、マニアックなものと言えるかもしれません。さすがはBMWと唸らされる一方、その性能をとことん知ろうと思うと、バイクに対する知識やテクニックなどある程度のレベルを求めてくるモデルだと感じました。決して「初心者にオススメしない」というわけではありません。実際に乗ってみると、バイクの性能が高いゆえに、なんだか自分のライディングスキルがあがったかのような気分にさせてくれることも。そこを「自分向きだな」と捉えるか、「ちょっと自分にはまだ早いかな」と捉えるかは、好みも含めた検討次第だと思います。
これまでのBMWモトラッドとは大きく離れたカスタムワールドへアプローチするモデル、R nineT。しかしその本質を探っていくと、質実剛健な作り込みと最先端を走るメーカーとして見据えているポイントなど、ブレないBMWモトラッドの哲学をそこかしこに感じることができます。間違いなくBMWの歴史にその名を刻むR nineT、ご興味がある方は最寄りの正規ディーラーに足を運んでみてください。
[BMW Motorrad R nineT SPECIFICATIONS]
全長/2,220mm
全幅(ミラー含む)/890mm
全高(ミラー除く)/1,265mm
シート高(空車時)/785mm
空車重量(燃料満タン時)/222kg
エンジン/空油冷フラットツイン(ボクサー)エンジン
排気量/1,170cc
ホイールベース/1,476mm
フロントタイヤ/120/70 ZR 17
リアタイヤ/180/55 ZR 17
タンク容量/18L
メーカー希望小売価格(消費税込)/190万円(2014年7月現在)