初日に教わったのはグラスの洗い方
珈琲が好きで、大学卒業後の24、5歳のころ、アルバイト生活を送りながら自宅で手網焙煎を楽しんでいた古屋さん。「全然うまくいかなかったので、おいしいと言われている珈琲屋を飲み歩き、大坊珈琲店に出会って、あ、これだと思いました」
「珈琲と仲よくなるために一番いい環境だと思った」から大坊珈琲店を選び、閉店までの2年間、そこで修行した古屋さん。
「初日に大坊さんに教わった……というか、見ていただいたのは、グラスの洗い方です。スポンジを持つ方の手で洗ったグラスを置けば、置いたと同時にもう片方の手で次の食器をつかめる、というようなコツを教えていただきました」
珈琲抽出の練習をするようになったのは、その半年後から。それはマスターの動きをじっと観察するという、注意深さと集中力のない人であれば何ひとつ学べないであろう方法でした。
「大坊さんが淹れるときに『ここに立って見ていて』と言われて、抽出が終わると『はい、じゃあやってみて』と。いちおう注意はありました。『できるだけゆっくり淹れてください』」
古屋さんが初めて抽出した一杯を飲んだ大坊さんは、「一番最初に淹れてくれた珈琲は、本当においしい」と感想を述べられたそうです。
「スタッフみんなに、安心させるためにそうおっしゃるんだと思います。とにかく最初はガチガチで、一杯淹れるのにずっとぽたぽた点滴しながら非常に時間をかけて淹れますから(笑)」
言葉では伝えられないこと
ゆっくり淹れる、という以外に注意は受けましたか?「そんなに何かを言われたような記憶はありません。最初はお湯を点滴で垂らしつづけて、だんだん線を引くように、というアドバイスをいただきましたが、あとは特に」
手取り足取り、こまかく指導されるわけではないんですね。
「私は勝手に『口ではうまく教えられないことなんだろうな』という意識でいましたから、すごく大坊さんを見ていました。洗いものをしながらでも、大坊さんが淹れるのを横目で見ていたり…とにかくひたすら見ていました」
そんな古屋さんはあとになって「きみは何も言わなくても覚えてくれる人だったからラクでした」とマスターに言われたそうです。
さて、この取材中、大変興味深く思ったことがあります。次ページでどうぞ。