1型と診断されたハル・ベリーが、インスリンをやめることが出来た?!と発表したことはセンセーショナルな話題でした。

1型と診断されたハル・ベリーが、インスリンをやめることが出来た?!と発表したことはセンセーショナルな話題でした。

米アカデミー賞を2度も受賞した名優トム・ハンクスが2013年10月のCBS(米)のトークバラエティ番組で「2型糖尿病と診断された」と話したニュースは瞬く間に世界を駆け巡りました。また、"ボンドガール"女優でモデルでもあるハル・ベリーが「1型糖尿病と診断されていたのに2型になった(!?)のでインスリンをやめた」と発表した時も一大センセーションをまきおこしました。医学の常識として、そんなことは有り得ないので世間の関心を集めたのです。いずれも勇気ある行動でした。

同病相憐 同憂相救

インターネットが始まった頃、米国の2人の姉妹が糖尿病のあるセレブ達を読者の協力を得て集めるサイトを開いたことがあります。手元に資料がないので現在の記事は確認できませんが、同じ主旨のスペイン語やアジアのいろいろなサイトに出合うことがありますから、どうも糖尿病患者はご同病のセレブの話題に興味があるようです。2008年にもアンジェリーナ・ジョリーが妊娠糖尿病で苦労しているというゴシップが流れました。米国の妊婦の4%に妊娠糖尿病がありますから、アンジーさんと同じ苦労が共有できるのでしょうか?

同病相憐むと言うと、何だかあまりパッとしないイメージですが、この言葉には同憂相救という下の句があって、同じ苦しみを受けている者は互いに同情して助け合うという意味になります。実は「呉越同舟」も同じことで、敵味方が同じ船に乗り合わせても嵐になれば協力しあうことです。

詩人、北原白秋が糖尿病のために視力を失い、「薄明のなかの人」となって57歳で生涯を終えたのは痛ましいことですが、同じ不安を持つ私達には白秋の心がより近くに感じられるのは不思議なことです。

私達が糖尿病のあるセレブ達を何んとなく覚えていて、直近の元気な様子を知るのもうれしいものです。つい先日、ウクライナ問題でソ連邦最後のゴルバチョフ書記長がテレビで話しているのを見掛けましたが、元気そうでなによりです。ゴルバチョフ氏も糖尿病のあるセレブなのです。

糖尿病を皆に話すべきか、話さないでおくか……

トム・ハンクスやハル・ベリーが素晴らしいのは、糖尿病というハンディキャップを臆せずにオープンにして糖尿病の啓発運動に一役買ったことです。糖尿病セレブと言っても物故者ならば書きやすいのですが、それでも発明王・トマス エジソンは糖尿病であることを知られるのを嫌がったそうですから、なんとなく筆が進みません。

皆さんは糖尿病であることを会社や同僚に話しましたか? 日本は医療費削減のために本来はプライバシーであるべき糖尿病やメタボを公衆の面前にさらして平然としている社会になってしまいましたから、糖尿病を話すべきか話さざるべきか、という古典的な問題は時代遅れになってしまったようです。米国では連邦リハビリテーション法とアメリカ人障害者法が雇用者に糖尿病患者にも同等の機会を与えることを求めています。しかし障害(糖尿病も含まれる)について虚偽の申告をするとアメリカ人障害者によって与えられる権利を失うので、就職の際には話すべきか話さざるべきは大きな問題なのです。日本でも糖尿病は就職、社内の出世や住宅資金の借入、生命保険、結婚などで相変らず差別を受けます。メタボ騒ぎで浮れないように慎重に行動しましょう。

トム・ハンクスから学ぶこと

役作りに熱心なトム・ハンクスは、映画によって体重を増やしたり減量したりを繰り返していたそうです。CBSによると映画「A League of Their Own、1992年、邦題プリティ・リーグ」の野球監督の役作りのために13.6kgも増やしたり、「Cast Away、2000年、邦題キャスト・アウェイ」では無人島で生き残る主人公の役作りのため映画の中で25kgも減量したそうです。トム・ハンクスは「もう、太らなくてはいけない役は卒業だ」と語っていますが、ユーモアの内に真実を秘めています。

遺伝的素因のある人が肥満や妊娠のストレスをかけることで糖尿病を発症することは理解することは出来ますが、詳しいメカニズムは完全には解明されていません。トム・ハンクスがどのような治療を行っているのかは明らかではありませんが、彼の「糖尿病は重い病気ですが、コントロールできるものです」というメッセージは多くの糖尿病患者の共感を得ることでしょう。

トム・ハンクスも20年前の36歳の時から高血糖であることを知っていましたから、メタボと診断された人は生活習慣の改善に努めなくてはなりませんね。

ハル・ベリーのエピソードから学ぶこと

2001年に「Monster's Ball」で初めてアフリカ系アメリカ人の女優としてアカデミー賞の最優秀女優賞を受賞した天下の美女、ハル・ベリーも糖尿病と闘ってきた経歴の持ち主です。

22歳のスマートでヘルシーなハル・ベリーがTVショウの“Living Dolls”に出演していた1989年に、突然、糖尿病昏睡で倒れました。1週間も人事不省状態だったそうですから、まったく予期せぬ出来だったのです。診断は1型糖尿病でした。米国の2型糖尿病患者の90%は過体重ですから、医師が1型と思い込んだのも無理からぬことです。

ところが、2007年11月に「1型糖尿病を克服してインスリン治療をやめることが出来たので、私はもう2型糖尿病のカテゴリーです」と発表して大問題になりました。1型糖尿病患者がインスリン注射をやめることは「死」を意味するので、ハル・ベリーのメッセージはとても危険なものと受け止められたのです。

事実は最初の1型糖尿病の診断が誤診だったのです。ハル・ベリーの母は白人ですが、若くして家庭を捨てた父親はアフリカ系でした。アフリカ系アメリカ人は遺伝的に2型糖尿病のリスクが高いのです。2008年に42歳で無事に女児を出産しましたから、ハル・ベリーはキュートな2型糖尿病であることは確かでしょう。

この事例から学ぶことは、小児や若者の糖尿病は1型か2型の判断が時としてとても難しいことがあるという事実です。成人の1型糖尿病でも自己分泌しているインスリンの濃度によっては1型と2型のグレーゾーンがあるので、必ずしも明らかな診断が可能とは限りません。半ばジョークで1.5型糖尿病と言うことがあるのもこのせいです。

私の知人の女性も1型の診断がかなり後に2型と変更されました。最初からインスリン注射が必要な状態であるのは変わりないのですが、自己インスリン分泌が微量ながらあるのです。そう言えば、この方の糖尿病診断後の数回の妊娠出産はトラブルなしでした。一人ひとり、いろいろな可能性があるようです。あきらめてはいけません。さらに、医学の進歩によってLADAやMODYなど稀なタイプの糖尿病が明らかになってきました。

でも、ハル・ベリーの言うとおり、どんなタイプの糖尿病も本人の意志と家族、医療のサポートがあれば克服できるのです。


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