最近、ネット上で、「治験」という言葉をよく見かけるようになりました。ここでは、治験についてご紹介します。
治験(臨床試験)とは
医療機関で処方される医家向け医薬品や、薬局で購入できるOTC医薬品(一般用医薬品)など、医薬品とされているものは、その薬の効果と安全性を確認して厚生労働省の承認をうけて初めて販売されています。治験は薬の情報を集める試験です。この情報が今後の皆さんの治療に活かされていきます。
このように、新しく開発した薬の人体への安全性と効果を、詳しく調べる試験を治験(臨床試験)といいます。
※治験(臨床試験)の中には、製薬会社だけでなく医師が主導になって行うものなどもあります。
薬の開発について
治験は、新薬開発における工程の一つです。そのため、まず治験の解説の前に、薬の開発全体の流れについて触れます。0.何の薬を作るかを決めるところから始まり、医薬品として効果を持つと考えられる物質を探索します。
1.スクリーニングテスト
物質の中から、医薬品として効果を持つ可能性があり、かつ毒性が少ない物をふるい分ける作業をします。ここで成分を絞り、開発していきます。
※開発には、膨大な金額と時間がかかります。最初の分野設定とこのスクリーニングテストが今後を占う重要なポイントとなります。
2.前臨床試験(非臨床試験)
成分がどのように作用するかを調べたり、既存の成分との効果比較などを行う薬効薬理試験や、生体にどのくらいマイナスの影響があるかを調べる毒性試験、成分がどのくらい吸収されて排泄されるか、身体のどの部分に分布しやすいか、蓄積されるか子どもにまで影響するかなど生体内での作用を知る薬物動態試験などを行います。この段階では、動物(ラット、イヌ、サルなど)による実験となります。
また、前臨床試験の中盤から後半ぐらいから、成分をどのように薬として加工すればいいかという製剤化や製造方法の研究も始まります。
3.治験(臨床試験)
前臨床試験での結果から、ここで人体への試験となり、大きく3つに分かれます。
・第1相試験(Phase1):少数の健常(健康)な男子に使います。薬の量や、吸収、代謝、体への分布、排泄などを調べます(患者に使う場合もあります)。
・第2相試験(Phase2):少数の患者に使います。効果ももちろんですが、安全性(副作用)や他の薬との相互作用なども調べます。
・第3相試験(Phase3):上記の結果をもとに、多くの患者に投与します(患者数は統計的に意味のある数を決定しますが数百位が一般的です)。安全性、効果、などさらに詳細に確認します。
上記の試験結果を整理して、厚生労働省に新薬の申請をします。申請から承認には、1年~2年程度かかるといわれています。治験だけでなく承認の時間も欧米に比べて長いのでので、この時間短縮が課題になっています。
・市販後調査(PMS:Post Marketing Surveillance、Phase4)
新薬の承認を受け、販売後にも調査を行います。使われた患者が対象になりますが、薬の特徴によっては、使われた患者全員が対象になることもあります(全例調査)。
治験の参加
治験を考えている患者さんにとって目にする機会が多いのは、治験の募集で一番人数が必要な第3相試験(Phase3)かもしれません。治験の募集は、医師や、病院の治験窓口(治験センター、臨床研究センターなど病院によって呼び名が異なりますので、お尋ねください)、パンフレット、インターネットなどで、知ることができます。
治験の参加は、全ての人が可能なわけではなく、薬によって(正確には試験の実施計画書(プロトコル)によって)参加できる条件が異なります。
例えば、疾患の程度が重い場合、肝臓や腎臓の機能が低下している場合、他に同じような薬を服用している場合など、色々がありますが、薬によって条件が異なりますので、まずは、治験の情報を得たところにお問い合わせください。
条件をクリアーして治験を始めますが、その前に治験の説明があり、同意書にサインをします。きちんと説明を受け、分からないところは質問して、安心して治験に参加できるようにしてください。
同意書にサインをしても、辞退したくなった時点で伝えれば、いつでも治験参加を取りやめることができます。
もちろん、治験に参加して治療を受ける中で、その薬では効果が見られなかったり、副作用などで調子が悪くなったりしたら、医師の判断で取りやめることもあります。
私見ですが、治験に参加するメリットは、治療の中で色々な問診やデータを取りますので、より詳細に病気を診てくれることにあると思います。
ぜひ、治験に関係する医療従事者と色々コミュニケーションを取り、安心して治験を受けられるようにしていただければと思います。
上記のように、薬は、データがあってこそです。皆さんが普通に飲んでいる薬も、実は色々な人のデータが元になり、効果だけでなく、安心して飲めるようになっています。費用や時間がかかっていますが、このようなデータの充足と厚生省による承認こそが、いわゆるサプリメントや健康食品との違いでもあります。
私たち医療従事者も、薬の服用データをもとに多くの患者さんが助かるよう、積極的に治験に参加していければと思います。