チームメイトのイチローも賞賛する田中の修正力
プロ野球時代から続く公式戦不敗記録をさらに伸ばした田中投手。登板した試合すべてがクオリティースタート(6回以上、自責点3以下)な点も、首脳陣から高い評価を得ている。
調子は決して良くなかった。立ち上がりから制球に苦しむ。とくにスプリットが思うように変化しなかった。「何もいいボールがなかった。スプリットはチェンジアップみたいにスーッといく感じで切れがなかった」と振り返る。一回、四回にソロ本塁打を浴びるなど、四回表を終わって0対3のビハインド。「負けてもおかしくない投球」で、不敗神話にも暗雲が立ち込めてきた。
しかし、四回裏、テシェエラが1点差に迫る右越え2ランを放ったことで、田中の心に変化が生じる。「自分の中でも結構厳しい状況の中で、3点差が一気に1点差になった。ここで我慢できれば、という思いが強くなった」。タマに切れがなく、調子が悪くても、腹をくくってストライクゾーンに投げるしかない。この開き直りともいえる修正力で、ギアを切り替え、メジャー最多113球、自己ワーストの被安打8、自己最少の5奪三振ながらも7回を3失点で切り抜けたのだ。
この田中の修正能力の高さを、登板6試合中4試合でスタメン出場し、バックから投球を見守ったイチローがこう解説する。「ゲームをつくってくれる。うまくいかないことを前提として、いろんなことを組み立てるという感じに見える。しんどそうだな、と見えても、(最終的には)形にする」。つまり、田中は良くない時を常に想定しているからこそ修正できるというのだ。もしかしたら田中は、最低の状況→あとは良くなるばかり、と思える究極のプラス思考の持ち主なのかも知れない。
ヤ軍は前夜に延長十四回、5時間49分の試合を行い、試合終了は午前1時前。リリーフ投手は7人全員が登板した。そして、この日は午後1時5分開始のデーゲームとあって、田中にはできるだけ長いイニングを投げることが至上命令となっていた。この状況下でメジャー登板6試合全てとなるクオリティースタート(6回以上、自責点3以下)は、首脳陣を喜ばせたばかりではなく、もはやエースの風格さえ漂ってくる。
日米32連勝。「本当に周りの方々のおかげです」と感謝の気持ちを忘れない田中は、まだまだ不敗神話を続けそうだ。