西武では渡辺久信以来、18年ぶりの快挙
七回以降、あえて記録を意識し、全力で腕を振ることを心掛けて最後まで力強さを失わなかったことが、今回の結果につながった。
最後まで球威は落ちなかった。初回にマークしていた最速145キロのストレートが、九回、最後の打者となった荻野貴の一邪飛も145キロを計時した。やや控えめに両手を挙げた岸の細身の体は、アッという間にナインにもみくちゃにされた。
「みんな意外と勢いよく来るんだなって。まさか、まさかです。うれしいしか出てこないです」
この日は外野から本塁方向へ5~6メートルの強風が吹き続け、縦に大きく落ちる自慢のカーブが決まらなかった。そこでストレートで押すことを決断。昨年までのストレートのスピードは140キロ前後だったが、オフの間に体重を3キロ増やし、パワーアップに成功。145キロ前後まで上げたことが、この日の快挙につながった。8奪三振のうち5個がストレートで仕留め、右打者が差し込まれて一邪飛を4個も記録したことが、何よりもその証拠だった。
また気持ちも強くなった。通常、ノーヒットノーランを続けている投手は、とくに七回以降、その記録を意識しないように努める。野手も気を使ってベンチで投手に話かけないようにする。ところが岸は逆にその記録を思いっ切り意識した。「思い切り投げるしかない」と全力で腕を振ることを心掛け、最後まで力強さを失わないことを肝に銘じた。チームでは岸が憧れて入団を決めたという大先輩・西口が、3度もノーヒットノーランをあと一歩で逃したが、このような気持ちの入れ替えができるかできないかが偉業達成への分かれ目かもしれない。
2年連続の開幕投手に選ばれた今季は、連敗でスタートした。ともに楽天・則本、オリックス・金子のエース対決に敗れたもの。渡辺前監督から求め続けられているのは、エース対決での勝利。「エースと呼ばれる人は毎年15勝している。エースと呼ばないでほしい」という岸だが、チームが最下位に低迷する中、最高の投球を見せるのがエースであり、この偉業は今後、各チームとのエース対決に勝利するための最高の起爆剤になったはずだ。