前回の記事で、私は中国・広州に行った話を書かせていただきました。2014年3月、日本からアーティストたちが招へいされ、広州にある
53美術館で、滞在、制作、発表をした
「拡張する地平」展を開催したのです。こうした「現地滞在、制作、発表をする活動」を、美術用語では「アーティスト・イン・レジデンス」といいます。特に現代アートでは、同時代に生きるアーティストが、その場、そのとき、その雰囲気などすべてを感じ取って作品をつくります。この広州では、アーティストたちがどういう活動をしたのでしょうか。
材料・素材の調達
木材の問屋さんにて
皆さんも旅先で「ご当地グルメ」を食べますよね。同じように、アーティストたちも「現地にしかない素材」を探します。中国で見かけたのは、多種多様な「竹」や「材木」。物だけではなく、中国あるいは広州にゆかりのあるできごと、歴史などもアーティストたちは作品に取り込もうとします。例えば、広州だと孫文、中国の自然をうたった漢詩などです。日本での下調べだけでなく、現地の人たちと話をしたり、食事や名所の背景に親しみながら、アーティストたちは作品という形につくりかえていきました。
制作
セシル・アンドリュー作品 鉄板の搬入のようす
金沢に20年以上住んでいる、フランス人アーティストのセシル・アンドリューさんは、作品につかう辞書を手に入れるために、広州の町にある古本屋を探していました。日本に長く住んでいるセシルさんは、今回滞在する中国と自分の母国フランス、日本をつなぐものとして、言葉を形にした「辞書」を素材につかおうとしたのです。同時にセシルさんは、広州の町にある鉄を扱う問屋で鉄の板を購入しました。トラックで運ばれた鉄板を、他のアーティストたちと協力して搬入し、円状につなげてプールのような形にしました。
セシル・アンドリュー 作品制作風景
手に入れた辞書は、シュレッダーに掛けて粉々にしました。もうひとつの素材として「消石灰」をつかいました。それは言葉を清めて、言葉によって生じる問題を消すという役割です。それらを混ぜて、鉄板で囲ったサークルに、4~5日ほどの時間を掛けて、美術館のボランティアスタッフと一緒に入れていきました。
会場に置かれたセシルさんの作品は、空間全体で体感する「インスタレーション」というジャンルのものです。