F1の歴史に欠かせない1976年の名勝負
映画「ラッシュ/プライドと友情」のストーリーの舞台は1976年(昭和51年)。この年のF1の覇権争いをしたニキ・ラウダ(フェラーリ)とジェームス・ハント(マクラーレン)が映画の主役だ。前年の1975年は「フェラーリ」のニキ・ラウダが世界チャンピオンに輝く。そして迎えた1976年、ラウダのライバルとなったのが、かつてF3時代にも戦った英国人プレイボーイのジェームス・ハント。シーズン前に小規模チーム「ヘスケス」から「マクラーレン」(75年ランキング3位)に移籍したハントは開幕戦ブラジルでポールポジションを獲得するなど速さを見せた。
映画「ラッシュ/プライドと友情」
左がジェームス・ハント役のクリス・ヘムズワース、右がニキ・ラウダ役のダニエル・ブリュール。
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真面目で沈着冷静なラウダ、好みの女性を見つけるや口説き落として遊びまくるハント。対照的な性格を持つ2人のトップドライバーのコース上での闘い、コース外での心理戦、人間ドラマが映画「ラッシュ/プライドと友情」では描かれている。
走る棺桶と呼ばれたF1マシン
映画「ラッシュ/プライドと友情」を楽しむ上で、ぜひ頭に入れておいて頂きたいのが、1970年代のF1と現在のF1には大きな違いがあるというところだ。その最たる例が「安全性」。1950年から始まったF1の歴史において、最初の30年は今では考えられないほど安全性が低かった。技術やノウハウの蓄積により、スピードを増していくF1だったが、60年代70年代にはF1ドライバーの死亡事故が頻発した。映画の舞台となる70年代では1970年~75年の6年間に9人のドライバーが事故で命を落としている。
映画の序盤、アメリカグランプリで大クラッシュが発生するシーンが登場するが、これは1973年のフランソワ・セベール(ティレル)の事故シーンを再現したものである。宙を舞ったマシンがガードレールに落下し、マシンが2つに割かれてしまいセベールは即死だった。映画の中でセベールの名前は字幕で登場しないが、F1史上最も痛ましい死亡事故のひとつである。チームメイトで3度の世界チャンピオン、ジャッキー・スチュワートはこの事故を見てそのまま引退してしまった。
1970年代前半のマシンの一例。映画の中にも登場するチーム「B.R.M」のP160E。1973年、ラウダとレガッツォーニがこのチームでチームメイトになっている。(ドニントングランプリコレクション所有)
F1では1970年代に事故が多発したことから、安全性の向上がなされ、80年代の死亡事故は4人まで減少した。また、F1での死亡事故というと、1994年のアイルトン・セナの事故を思い出す人が多いだろうが、セナの事故以後、F1ではテスト中の事故を含め、死亡事故は発生していない。
現在のF1は強固で軽量なカーボン(炭素繊維)素材でマシンが作られており、厳格なクラッシュテストをパスしなくてはならない。また、ドライバーの身を守るヘルメットもカーボン素材が義務づけられている。さらにサーキットも厳しい安全基準を満たさなくては開催できないし、医療設備にも厳格なルールが設けられ、悪天候などで医療ヘリが飛べなくなるとレースを中断するなど、安全性には徹底した配慮がなされている。
ドライバーの安全に最新の注意が払われる現在のF1。写真はメルセデスAMGのニコ・ロズベルグ
【写真提供:Daimler】
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