長期で数倍期待も?中国オンライン小売大手のVipshop
Vipshop (VIPS)は中国広東省・広州市に本拠を持つインターネット小売業者で、各種ブランド製品のディスカウント販売を専門とする会社です。対象とする製品はアパレルを中心に、スポーツウェア、シューズ、ハンドバック、化粧品、アクセサリー、家具などです。あくまで売れ残った在庫製品を安く売るという「ディスカウンター」であることがポイントであり、販売形式はAmazon.comや楽天のようにオンラインのみとなります。300人のディスカウント販売を専門とするマーチャンダイザーが、中国の6,500を超えるメーカーブランドよりシーズン時期を過ぎた在庫商品を品揃えして販売します。 Amazon.comのように、同社自身の物流センターにある程度の在庫を持ち( 500万点以上) 、最新のロジスティクスシステムで配送します。ニューヨーク証券取引所に2012年3月上場しました。そして上場時の株価6.5ドルから、早くも先月には14倍高となる90ドルを一時超えました。まだそれほど大きくない会社ですが、 2012年第3四半期に初めて黒字転換を達成すると、その後は倍々ゲームで売上と利益を伸ばしている所です。 4年間で2,800万人のユーザー登録がありました。2010年の売上高3,260万米ドルだったところから、2013年の予想売上高は160億米ドルを超えると言う急成長ぶりです。株価や業績の急成長ぶりを見ると 同社のニッチなビジネスモデルが中国と言う市場で非常によく機能していることを感じるところです。
非常に魅力的なビジネスモデル
中国全体の小売売上規模は2013年に約380兆円にもなると予想されています。そしてその中の主要な1つ、アパレル製品においては売上規模の半分に近い額の在庫を抱えると言われます。それは中国の小売店の仕入れシステムが欧米のような買い取りでなく、売れなければメーカーに返品できるという委託販売制度をとるところが多いためと思われます。しかしながら中国において現在大量の(売れ残った)在庫製品を一掃するシステムはほとんどありません。米国ではT-J-Maxx ( 2,200店舗)やROSS Stores ( 1,200店舗)という大規模なディスカウントチェーン店がメーカーの在庫を吸収する大きな役目を果たしています。特にT-J-Maxxはよく知られたトップブランドのセール品も(家具なども)取り扱います。またこれらとは別に(近年日本でも多くできてきた)大規模な「アウトレットモール」が一昔前から郊外に数多くあります。そもそも米国の大手衣料小売店(Gapなど)は自らの店舗やウェブサイトを通じ、売れ残り製品のセールに長ています。
ところが在庫の多い中国では米国のような「一掃システム」がほとんどなく、未発達となっています。北京などにはアウトレットモールがわずかにあるものの、その他の大都市郊外にはなく、同社は大部分の中国における「ディスカウント製品を待ち望む人々 」をターゲットにできます。大量の在庫を抱える中国のブランドメーカーも同社とのパートナー関係に協力的になりやすいでしょう。多くのブランドメーカーは自らインターネットサイトを開いてeコマースのシステムを作る技術もありません。
このような環境で同社のターゲットとするビジネスモデルは非常によく機能してるものです。中国にできあがっていないディスカウント製品の販売システムの先行者として(ネット店舗なので地方都市もカバーできる)、人々のニーズを取り込み、急速に普及している様子が財務内容や株価に表れている所です。後はAmazon.comのようにいかにフルフィルメント設備を( eコマース業界最強のものとして)充実させられるか、オンラインサイトの利便性やアクセスデータを使った高度なマーケティング手法を極められるかにかかっています。
中国でもすでにeコマースの規模が大きくなっており、同社よりも遥かに大きなオンライン販売サイトが複数あります。最大のものは現在上場が検討されているアリババ社傘下にある「淘宝網」と「天猫モール」で、その他にも京東商城の運営する「JD.com」(旧360buy.com)等あります。これらもディスカウント製品の販売をネット上で行っていますが、基本的に販売趣旨の異なる会社です。 VIPショップは一般的なマーケットプレイス(買い手と売り手が直接売買をする)やオークション販売とは違い、ブランド製品のディスカウント販売を専門に、自社のマーチャンダイザーが商品の企画を行います。ディスカウント専門に徹している強みがあると思われます。
>>次のページでは同社の業績について検証してみたいと思います