“最新技術”の動くショールーム
いつの時代も、メルセデスベンツの誇る“最新技術の数々”を展示して走る、いわば動くショールームというべき存在がSクラスというクルマである。ただ単に、“高いクルマは素晴らしい”に留まらない。メルセデスにとって、有効なシステムは全ての車種に必要なもの、である。だから、Sクラスに“陳列”された様々な技術や装備は、来春早々にデビューする予定の新型Cクラスを含め、今後、多くのラインナップに“下賜”されていくはず。
現時点でも、EクラスやAクラスの装備をみれば、メルセデスによる“最新装備の民主化”のホンキ度は相当に高いことが、判る。
そもそも、大型高級車を得意としてきたメルセデスにとって、Sクラスこそは歴史と伝統の継承者であった。そんなメルセデス最高峰の乗用車が“Sクラス”と名乗り始めたのは72年に登場したW116から。今回の新型W222は第6世代ということになる。
インテリアはダッシュボードからシートまで流れるような一体感のあるデザインコンセプトを採用。バックレストに内蔵したエアクッションによるマッサージ機能に加え、温熱機能を備えるホットストーン式マッサージ機能(S550はオプション)も採用される
メルセデスがインテリアへの考え方を、保守本流のサルーンシリーズにおいてもこれほど変えてきた背景には、高級車セグメントの競争が激化していることに加えて、“高付加価値”が、性能・安全・環境に次ぐプレミアムブランドにおける第4の軸になっているからだ。そして、デザインこそが、その高付加価値の主たる要素になっている。
インテリアフィニッシュは、とにかく衝撃的だ。豪華でよくまとまっている。洗練された、という意味では、近年まれに見る仕立てで、初めてみたときには“これが本当にメルセデス? ”と思ってしまったほど。
巨大なスクリーンがメーターナセル内におさまり、それを飲み込んだダッシュボードが左右のドアトリムへと美しく融合している。たとえば、エアコンの吹き出し口などは、場所ごとに大きさを変えるという凝りようで、ディテールにも文句のつけようもない。特に、フルレザーラップ仕様のフィニッシュレベルの高さは、ブリティッシュスーパープレミアムをも凌ぐ。
一方のエクステリアはといえば、これぞメルセデスの正統というべき巨大グリルが、Sクラスであることの全てを物語っている。スタイリングの方向性そのものは、旧型とさほど変わらない。3サイズもわずかに大きくなっただけで、旧型とほぼ同じ。つまり、Sクラスというクルマの、表向きの存在感では、しっかりと過去を継承している。これもまた、ロイヤリティの高いモデルらしい方法論であろう。あえていえば、お尻下がりのエモーショナルなラインで、エレガントさを加味した、といった具合か。
従来と同様に、ショートボディと+130mmのロングボディを用意する。ただし、3桁km級の軽量化もぬかりなく進めており、パフォーマンスとエフィシェンシー両方の向上をみた。
日本仕様は、現時点で、ショートのS400ハイブリッド(右ハンドル)と、ロングのS550(左右H)、そしてS63ロング(右H)&S63 4マチックロング(左H)のAMG2グレード、というラインナップ。
売れ線は当然、S400ハイブリッドとなるはずで、搭載されたハイブリッドシステムこそ旧型と同じタイプながら、高速時にエンジンを切り離すセーリング機能の追加や、EV走行ができるようになるなど、若干の機能アップで2割の燃費向上を実現した。
そんなS400ハイブリッドが旧型S350とほぼ同じ価格でスタートするわけだから、装備内容を考えあわせてみると、バーゲンプライスであるともいえる。