相続・相続税/生前贈与・贈与税の基礎知識

思わぬ落とし穴も!? 孫への教育資金の一括贈与

平成25年4月に始まった教育資金の一括贈与制度。子や孫の教育資金を1500万円まで非課税で贈与できる制度です。相続税対策として人気を集めていますが、注意点もあります。実際に利用した人の声をもとに、制度のメリットとデメリットをまとめました。2019年度税制改正により、期間が「2021年3月31日まで」に延長されます。

小野 修

執筆者:小野 修

相続・相続税ガイド

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孫への教育資金の一括贈与を考える人が増加中

平成27年からの相続税増税にともない相続税対策が注目されるなか、平成25年4月にスタートした「子や孫への教育資金の一括贈与制度」が人気を集めています。

子や孫へ教育資金を贈与する場合、1500万円までなら非課税となるこの制度。うまく利用すれば相続税の節税対策に大きな効果が期待できます。実際は孫への贈与が大半のようです。

ちなみにこの人気を受けて、平成27年4月1日から「結婚・子育て資金の一括贈与制度」が別途設けられました。

教育資金の一括贈与はスタート当初は爆発的に申し込みが殺到していたようですが、申し込んだ後、思わぬ落とし穴に悩んでいるという話を聞くようになりました。今回は「教育資金の一括贈与制度」のメリット・デメリットをご紹介しますので、特にこれから利用を考えている人は、よく確認しておきましょう。
 

教育資金の非課税贈与のメリット

メリットとしては主に、相続税対策を目的とした以下のものがあります。

●贈与時に贈与税がかからない
通常1500万円の暦年贈与だと470万円の贈与税がかかりますが、教育資金の一括贈与制度では贈与時に贈与税はかかりません。

●使い切れば贈与税がかからない
贈与された子や孫が30歳になるまでに教育資金として使い切れば、贈与税はかかりません。

※2019年度税制改正により、2019年7月1日以後に30歳になる場合で学校等に在学しているなどの一定の要件を満たせば最大で40歳まで続けられることになります。

●元気なうちに一括贈与できる
贈与された財産は相続の際に財産への持ち戻しがありません。高齢の人や認知症の不安がある人は、毎年コツコツと暦年贈与をしていくには限界がありますが、元気なうちに一括で贈与できます。

※2019年度税制改正により、2019年4月1日以降の贈与者の相続からは、相続発生前3年以内の信託等(経過措置として2019年3月31日までの信託を除く)のうち使い切っていない残額については財産への持ち戻しをすることになります。ただし受贈者が「23歳未満」「学校等に在学中」「教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している」のいずれかに該当する場合は除かれます。

●暦年贈与との併用も可能
教育資金の一括贈与制度と暦年贈与の併用も可能ですので、別途110万円までの贈与があっても贈与税はかかりません。なお孫(養子、代襲相続人を除く)への暦年贈与であれば、贈与した人に相続が発生した場合でも3年以内の持ち戻しはありません。

●手数料がかからない金融機関も
手数料無料としている金融機関もあります。これは制度利用の手数料で利益を得ようとせず、資金の囲い込みを目的としているようです。
 

教育資金の非課税贈与のデメリット

一般的によく聞くデメリットは以下のとおりです。

●制度が期間限定である
期間が平成25年4月1日から平成31年3月31日までに限られています。

※当初は平成27年12月31日まででしたが、平成27年度税制改正により期間が延長されました。更に2019年度税制改正により、期間が「2021年3月31日まで」に延長されます。

●所得制限がある
2019年度税制改正により、所得制限が設けられます。2019年4月1日以降の信託等は、信託等する日の属する年の前年の受贈者の所得金額が1000万円を超える場合にはこの制度は利用できないことになります。

●領収書をとっておく必要がある
金融機関への領収書の提出が面倒。また、「指導をする者の名前」で領収書が出るものに限られるため、自分で買ったものなどで除外されてしまうことがあります。

※なお平成27年度税制改正により、提出する領収書等が一部簡略化されました。平成28年1月1日以降、領収書等に記載された支払金額が1万円以下で、かつ、その年中における合計支払金額が24万円に達するまでのものについては、教育資金の内訳などを記載した明細書とすることができます。

●教育資金に該当するものが不明確
教育資金の範囲が不明確で、迷うものがあります。下宿代、海外留学の滞在費などは教育資金に該当しません。なお外貨で支払った金額は支払日の為替レート(TTS)で円換算されるため、実際に払った金額と領収書の金額に誤差が生じてしまうことも。

※なお平成27年度税制改正により、平成27年4月1日以降の「通学定期券代」「留学渡航費」等が教育資金の対象として加わりました。
 
ここまでは多少なりとも予想できたかもしれませんが、制度が始まってみて分かった「思わぬ落とし穴」とは? 
 

教育資金の非課税贈与の思わぬ落とし穴とは

制度を利用し始めてしまったらもう後戻りできません。利用者から聞いた思わぬ落とし穴をご紹介します。

●そもそも相続税がかからなかった
将来に相続税がかからない(基礎控除の範囲内の)財産なので、相続税対策として意味がなかった。

●使い切れないほどの金額を贈与した
孫かわいさに限度額1500万円を贈与したが、実際には使い切れないと息子に言われた。使い切れなかった際の贈与税が心配だ。

●贈与し過ぎて自分の老後資金が不足した
贈与したのはよいが、贈与した自分自身の今後の生活費や医療費、老人ホームの費用などが心配になってきた。金融機関から返金はできないと言われ、「贈与し過ぎ」を後悔している。

●一括でなく、その都度贈与するので十分だった
そもそも「教育資金をその都度贈与することは非課税」ということを知らなかった。まだまだ自分は元気だし、その都度贈与で十分だった。
 

実はもっと大きな問題が「心のダメージ」

ここまでのデメリットや落とし穴は手間やお金の問題であるため、なんとか解決の道が考えられるもの。しかしながらもっと大きな問題が「心のダメージ」です。孫に喜んでもらいたい一心だったが……。予想もしていなかった問題がありました。

●当の孫本人にはさほど喜んでもらえず
孫に喜んでもらいたかったが、孫は状況は分かっておらず、喜んだのは娘の夫だったのでがっかり。

●一括贈与なので孫の喜ぶ顔も一度だけ
孫は喜んでくれたが最初だけ。それなら教育資金が必要な都度贈与して何度も喜ぶ顔が見られたほうがよかった。

●不公平な一括贈与で家族が不仲に
贈与資金に余裕がなく長男の子(孫)にだけ贈与したら、二男と長女から不公平だと不満の声が。これを発端にきょうだいの仲が悪くなり始めた。

●他の親族に相談せず、早い者勝ち(?)で一括贈与
上限1500万円を息子の子(孫)に贈与したが、その後、息子の妻の親から「我が家も贈与したいと思っていたのに」と苦情が。孫に喜ばれたい気持ちは同じ。先にあちらに相談しておく必要があった、ということまでは気付かなかった。

孫に喜んでもらいたいという気持ちが強いのは分かりますが、こじれてしまった際は、相手が親族なだけに生涯悩まされることにもなりかねません。どのくらいの資金が必要なのか、効果はあるのか、逆に不満を与えてしまう人はいないか。じっくりと考えてから、この「教育資金の一括贈与制度」を利用するようにしてください。

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