大久保と川又は”ゴールに愛されている”
J1リーグの得点ランキングを争うふたりが、代表に招集されない理由とは?
得点を多く取っているから、身体能力が高いから、テクニックがあるから、といった理由だけで、日本代表のメンバーが決まるわけではない。
代表チームの戦術にフィットできるか。選手同士の相性はどうか。先発で力を発揮するのか、途中交代でも貢献できるか、といったタイプも考慮される。同じポジションに優秀な選手が2人以上いれば、誰かをふるい落とさなければいけないという選択も迫られる。レベルの高い選手に序列をつけ、上位の選手からピックアップすればいい、という単純な話ではないのだ。
それにしても、得点ランキングの1位と2位の選手である。ザックは「継続して結果を残しているか」を選考ポイントのひとつにあげるが、大久保と川又はコンスタントにゴールネットを揺すってきた。
何よりも、彼らには「勢い」がある。
好調なストライカーは、メンタリティが前向きだ。少しぐらい態勢が苦しくても、シュートコースを限定されても、ゴールまで距離があっても、積極的にシュートを打とうとする。
すると、どんな状況がおこるのか。
自分のシュートはディフェンダーにブロックされたが、コースが変わってゴールキーパーの逆を突く。こぼれ球が味方選手の足元へ転がる──誰にも予想できない展開から、得点が生まれることがあるのだ。積極性がもたらす副産物である。
ゴール前では何が起こるか分からないだけに、貪欲にシュートを狙ってくるストライカーはディフェンダーの警戒心を呼び覚ます。打たせてはいけないという意識をディフェンダーが高めたところで、ストライカーが味方選手をうまく使えば──フリーの選手が出てくる。自分は得点できないまでも、チームメイトがゴールする可能性が高まる。
同時に、好調なストライカーにはボールが集まるものだ。味方選手のシュートをゴールキーパーが弾き、こぼれた先にストライカーがいるというシーンは、国やレベルを問わずにしばしば見受けられる。〈ゴールに愛されているストライカー〉がいることで、チームの攻撃に複合的な効果がもたらされるのだ。
チームの成熟度を優先するザック
ならばなぜ、ザックは大久保や川又を招集しないのか。理由は戦術的な問題にある。
2010年9月に立ち上げられたザックの日本代表は、すでにチームが固まっている。その一方で、チームが集合する頻度には限りがある。新しい選手をテストするよりも現状のチーム力を向上させることに、ザックは重きを置いているのだ。
ザックの日本代表は4-2-3-1のフォーメーションを採用しており、大久保がプレーするなら2列目と呼ばれる「3のサイド」になるだろう。ところが、このポジションには香川真司(マンチェスター・ユナイテッド/イングランド)と岡崎慎司(マインツ/ドイツ)がいる。ザックの構想では、清武弘嗣(ニュルンベルク/ドイツ)も2列目のサイドプレーヤーだ。J1リーグの得点ランキング4位タイにつける工藤壮人(柏レイソル)も、代表では2列目のサイドが定位置である。
試合の途中から流れを変えるジョーカーでは、スピード豊かなドリブルを駆使する乾貴士(フランクフルト/ドイツ)や齋藤学(横浜F・マリノス)がザックの期待を集める。大久保を招集しなくても、2列目の人材はひとまず揃っているのだ。
川又を日本代表に当てはめると、4-2-3-1の「1」になる。1トップと呼ばれるポジションだ。
今年6月のコンフェデレーションズカップまでは、前田遼一(ジュビロ磐田)がファーストチョイスだった。しかし現在は、柿谷曜一朗(セレッソ大阪)がザックの強い関心を惹き付ける。7月の東アジアカップで得点王に輝いたこの23歳は、9月のガーナ戦から3試合連続で先発起用されているのだ。
ザックがここにきて柿谷に傾倒しているのは、周囲とのコンビネーションに理由がある。日本人でも際立ってボールコントロールが巧みな柿谷は、密集でも正確にボールを受けることができる。香川や本田はもちろん、遠藤保仁(ガンバ大阪)らとも相性がいいのだ。
さらに加えて、最終ラインの背後を狙う柿谷のフリーランニングは、相手の守備陣を下げる意味を帯びる。パスがつながればそのまま決定的なシーンにつながるし、つながらないまでも中盤にスペースが空き、本田、香川、岡崎ら2列目へのマークが分散される。
柿谷と同じ役割を、川又に期待できないのか?
そんなことはない。ただ、攻撃に化学反応を引き起こす存在として、ザックは柿谷を最適任者と考えているのだろう。チームが攻撃に課題を抱えるいまは、川又がフィットするのを待つ時間的余裕がないという判断も働いているに違いない。
本田がプレーするロシアプレミアリーグでも、同じような状況が生まれている。得点ランキングで首位を走るアルテム・ジュバという選手が、ロシア代表に選出されていないのだ。ファビオ・カペッロ代表監督は「目が悪くなったのではないか?」と揶揄されてもいるが、欧州や南米では代表監督を「選ぶ人」とも呼ぶ。個人的な好みが選考に反映されるとしても、結果を残せばそれが正解になる。
「意外性」が生み出す効果に着目せよ!
代表監督は選手を育てるのではなく、選手を選ぶのが重要な仕事であるとのスタンスは、日本でも理解されている。それでも大久保や川又への待望論が巻き起こるのは、彼らが秘める意外性に理由がある。
10月のセルビア戦やベラルーシ戦を振り返ると、自分たちのサッカーへのこだわりが足かせになっていることに気づく。ショートパスをつなぐスタイルを高めようとするばかりに、相手守備陣に読まれやすいサッカーになっているのだ。
大久保や川又らは、つねにゴールを意識している。思い切ってゴールを狙う。「そこからシュートを打つのか」とか「そこに走り込んでくるのか」という驚きがある。彼らのプレーには、相手ディフェンダーが読みきれない意外性があるのだ。
身体ごとゴールヘ飛び込むような大久保や川又のプレーは、対戦相手に威圧感を、自チームに勢いをもたらす。日本代表の閉塞感を打破する可能性は十分にある。そして、ワールドカップへ向けた日本代表に必要なのは、ピッチの空気を劇的に変えられる彼らのようなプレーヤーなのである。