「男はつらいよ」望郷篇
1970年公開、シリーズ第5作。
山田洋次監督、渥美清主演の「寅さん」シリーズは今なお根強い人気を誇っている。全国を渡り歩いている寅さんの足は公共交通機関、鉄道利用がメインだ。48作ある作品中に列車や駅の登場するシーンも多く、それをまとめた『「寅さん」が愛した汽車旅』(南正時著、講談社)という本もある程である。その中でのベストは「望郷篇」であろう。
危篤になった知人の息子を探しに北海道の小樽へ出かけた寅さん。その息子は機関助士(SLの釜焚き)だということで国鉄(当時)小樽築港機関区を訪問する。スクリーン一杯に登場するC62やD51。無下に拒まれ、機関車に乗って出発してしまう息子を車で追いかける寅さんと連れの二人。勾配の厳しい函館本線を力走するD51がたっぷり登場する。煙に巻かれながらも仕事に励む機関士、機関助士の様子も手に取るように分かる。
追いついた駅で息子を説得する寅さんと哀しい過去を面々と語り、再び機関車に乗って去っていく息子。何とも切ない場面だった。
「男はつらいよ」寅次郎サラダ記念日
1988年公開、シリーズ第40作。山田洋次監督、出演=渥美清、三田佳子ほか。
冒頭いきなり登場する小海線の2両編成のディーゼルカー。かつては全国どこでも見られたお馴染の車両だったが、今では千葉のいすみ鉄道を走るのみである。昭和の汽車旅を彷彿とさせる名車両で、寅さんは、これに乗って北から南へと紅葉を追いかけて「商売」に励むのである。車窓を眺めながら旅暮らしの哀愁を面々と語るシーンは忘れ難い。
ふとしたことから、早稲田大学を訪問することになる寅さん。都電荒川線に乗って、「都の西北」へ向う。偶然出会った学生と珍妙なやりとりをする。この学生役は、先頃終了したNHK朝ドラ「あまちゃん」の正宗パパに扮した尾美としのりの若き日の姿である。
物語で関わった女医さん一行が柴又を訪れ、去っていくシーンで効果的に表れる京成金町線の電車も、今とは車両が異なり時代の変遷を感じてしまう。