放射線被曝による人体への影響を考えるために必要な知識とは
外部被曝量を知るための空間線量の測定。人体への影響を考える場合、放射線の種類や有無ではなく「量」が問題となります
- 放射線による被曝の影響は量の問題であること
- 影響として「確定的影響」と「確率的影響」の2つがあること
もう一点、知っておいていただきたいのは、放射線による被曝には「外部被曝」と「内部被曝」があることです。それぞれ検査法と対策法、気をつけるべきことが異なります。
放射能と放射線の違い
まず理解していただきたいのは放射能と放射線の違いです。よく「放射能」という言葉を耳にすることがあると思いますが、放射線と何が異なるのでしょうか。「重要視すべきは放射線有無ではなく被曝の「量」」でも解説しましたが、放射線は放射性物質というものから発生します。この放射性物質のことを、別名で放射能と呼びます。(ただ、「放射線を出すことができる能力」という抽象的なことを放射能と表現することもあります。)
放射能から放射線が発生します。ですので、「放射線を浴びる」ことと、「放射能を浴びる」ことでは、状況が全く異なるのです。では、本題の外部被曝と内部被曝について話を進めましょう。
外部被曝とは……測定方法と除染
レントゲン写真。放射線が体を通過する際にある程度吸収されるため、その部分だけ感光せず、フィルムには白く写ります
レントゲン検査では、放射線を外部から浴びせて体を通過させます。体を通過した際にフィルムに感光しなかった部分が白くなり、骨などの内部の状態を知ることができます。
積算線量計であるガラスバッジ。体につけて被ばく量を測定します
同様に空間線量を下げるために「除染」が行われています。空間線量を下げることで、外部被曝量も減らすことができます。
内部被曝とは……食品摂取による被曝・測定方法
それに対して内部被曝とは、体の「内側」に放射性物質(放射能)が取り込まれてしまい、そこから発せられる放射線によって内部から被曝することを指します。あまり身近な例ではないかもしれませんが、医療で行う「PET検査」などは、この内部被曝を利用した検査です。体の中にブドウ糖の形に似た放射性物質を注射します。がん細胞は他の細胞に比べてブドウ糖をたくさん取り込む傾向があるため、がん細胞に放射性物質が集まります。そこから漏れ出る放射線を検知することによって、体のどこにがん細胞が存在するかを調べる検査です。詳しくは「体への負担を抑えて全身をチェック!PET検診とは?」をご覧ください。
放射性物質を体に取り込んでしまう状況はいくつかありますが、代表的なものは食品からの摂取と空気から吸ってしまうものの2つです。詳しくはまた解説しますが、原発事故後から2年以上が経過した現在、気をつけるべきは食品摂取の方です。現状の福島県で生活する上でも、空気から原発事故によって放出された放射性物質を吸ってしまうリスクはほぼ皆無です。
食品や水の放射線量の測定が今なお行われているのは、放射性物質に高度に汚染された食品を摂取することによって、内部被曝が起こることを防ぐためにです。上記写真のホールボディーカウンターと呼ばれる装置で、体の中の放射性物質の量も計測することができます。ホールボディーカウンターがない場合は、尿を測定することでも体内の放射性物質量を推定することが可能です。
外部被曝と内部被曝、人体への影響で危険なのはどちら?
外部被曝と内部被曝の差は、放射性物質(放射能)が体の外側か内側かの差ということになります。放射能を取り込んで被曝してしまうことが内部被曝です。「放射線を摂取してしまった」という表現がおかしいことはもうおわかりですよね。それでは、外部被曝と内部被曝の差が分かったところで、質問です。どちらが危ないのでしょうか?
答えに進みますが、これは非常に意地悪な質問です。同じような質問をします。お酒とたばこ、どちらが体に悪いでしょうか?
答えは、お酒でもたばこでもありません。たばこの方が受動喫煙の問題などで話題になりがちですが、個人の健康としてはいずれも量の問題という回答になります。毎日の大量飲酒と一年に一本のたばこのどちらが体に悪いかというと、飲酒の方が問題でしょう。逆もしかりです。
もちろん外部被曝も内部被曝も合理的なレベルで少なければそれに越したことはありません。ただし、どちらが危険かと言われれば、それはあくまでも量の問題です。内部被曝だけが危ないような話をされることが、未だに多々ある状況ですが、それは間違いです。
確かに内部被曝は、放射性物質を体の中に取り込んでしまっているので、放射性物質自体が体のすぐそばに存在します。しかし、体に近いから危ない、体から遠いから危なくない、というわけではありません。いずれにせよ、0か1の話ではなく、程度の問題なのです。