過小評価されている犯罪多発国の渡航事情
治安悪化の要因は多種多様
これは私の感触ですが、この海外安全ホームページは一般犯罪のリスクを過小評価し、政治的リスクを過大評価する傾向があるように感じます。一般の旅行者にとって、現状この点は、このサイト利用上の一番の問題点であると私は考えています。
強盗などの一般犯罪で邦人に死者が出た場合と、政治的背景のある事件で死者が出た場合では、たとえ死者の数が同じでも政府として取らなければいけない対応が本質的に変わってくることは想像できます。ですから、外務省という役所が作成しているサイトである以上、致し方ない部分があるのは私も理解できます。
旅行者への脅威は、政治的リスクよりも治安の悪さの方が大!
しかし、一般の旅行者が実際の被害に遭う可能性が高いのは、圧倒的に治安の悪さに起因する一般犯罪の方! 近年治安の悪化が世界で最も著しいと言われているホンジュラスのサンペドロスーラやテグシガルパ、ベネズエラのカラカス、ケニアのナイロビの一部(スラム等)にはレベル2の「不要不急の渡航は止めてください」が発出されていますが、昔から治安の悪さで悪名高い南アフリカのヨハネスブルク、ブラジルのサンパウロやリオデジャネイロなど、いずれもまだまだ「十分注意してください」の扱いのところもあります。 一方、チベットやネパールのカトマンズ、トルコのイスタンブールなど、政治的リスクを主因とする地域も同じ「十分注意してください」です。この前者と後者、同じ期間旅行したなら、危険な目に遭う確率は前者の方が何倍(おそらく何十倍!?)も高いでしょう。確かに、政治的リスクは一旦火が付けば大事になることは分かりますが、それを差し引いても、一般犯罪のリスクの方が過小評価されていると感じます。上のブラジルと下のネパールを比べると、ネパールの方が随分危なそうな感じを受けますが、実際はむしろ逆ではないでしょうか。
世界のすべての地域の複雑な治安情勢を全部5段階に分けるのには無理があるのは承知しつつも、多くの邦人の命に係わるサイトだけに、より高精度な判断基準を示してもらえるよう願いたいと思います。私見を述べさせてもらえば、ヨハネスブルク、ブラジルの各都市などは、少なくとも部分的には「不要不急の渡航は止めてください」に入れても良いレベルなのではないかと考えています。
ブラジルのページにある「安全の手引き」によれば、サンパウロ市の強盗の発生率は2015年のデータで日本の876.9倍。現地警察が認知していない件数を含めれば恐らくこの数倍、しかも外国人旅行者は地元の人よりずっと狙われやすいです。それにブラジルの強盗は日本のように“優しく”はありません。少しでも抵抗すればためらいなく撃ってくるはずです。
やはり我々一般のサイト利用者としては、この危険度の「色」が必ずしも絶対的な安全性の尺度とはなっていない場合もあるということを知っておいた方がよいでしょう。
また何年も更新されず、すでに終わった大統領選が「予定」になっている国のページなどは、このサイトの信ぴょう性を揺るがしかねない問題だと思います。
やはり最後は自己責任
恐ろしい犯罪統計に愕然……
このサイトは外務省という重い責任を担っている役所が書いているものですので、基本的に「海外は危ない」というスタンスで貫かれています。
例えば世界で最も治安の良い国の一つであるシンガポールがどう書かれているでしょうか。冒頭のくだりは、
「シンガポールは安全な国と思われがちですが,市内のレストラン,ショッピングセンターや路上あるいは空港等でも,置き引き及びスリが頻発しており,パスポートや金品の盗難被害に遭う日本人旅行者があとを絶ちません。また,日本人をターゲットにしたものかは不明ですが,日本人が深夜路上で凶器を突きつけられ金品を奪い取られる強盗被害も発生しており,警戒が必要です。」(以上、外務省海外安全ホームページより抜粋)
といった調子ですので、他の国は推して知るべしといったところでしょう。従って、巷では「あのサイトは気にしない方がいいよ」という声を旅行者の間ではよく聞きます。
とはいえ、ここに書いてあることに少なくとも嘘はないはず。実際海外ではあまりにも安全対策に無防備すぎる日本人旅行者がたくさんいて、結果的に大使館の保護を受けているのも事実です。だとすれば、外務省のサイトであればこのくらいの書き方になるのはある意味仕方ないと思います。
ですので、海外安全ホームページを読んで不必要に怖くなって、旅行を楽しめなくなってしまっては本末転倒です。
全ては楽しく安全な旅のため