NYダウの配当魅力は国債利回りに比べて低下
ここで、NYダウ全銘柄の年間配当額と時価総額を見てみましょう。NYダウはわずか30銘柄の構成ですが、その時価総額は合計で430兆円を超えます。大証と合併した東証1部全1754銘柄の合計時価総額は395兆円です。これだけで一つ一つの企業がいかに巨大かがわかります。
それはさておき、ここでは配当利回りに注目します。それぞれの企業が年間で支払う配当額を列記しており、エクソンモービルの約1兆円を筆頭に合計12兆円の配当が支払われます。これを合計時価総額で割ると、NYダウの配当利回りは2.74%。10年債利回りは2.89%です。
つまり2013年8月時点では、NYダウに投資するよりも10年国債を買ったほうが得だということです(単純に国債の利息と株式の配当利回りを比較した場合)。しかも国債は元本が100%返ってきます(米国のデフォルトは考えないとした場合ですが)。
一方、NYダウなどの株式は10年後に値下がりするリスクもあります。我々のような個人投資家は、利息や配当を目当てに投資を考えることなどあまりないと思いますが、ビックマネーといわれる巨大な機関投資家はこのような視点で判断をします。そしてそのビックマネーは、FRBの量的緩和であふれ出たお金です。
NYダウが奇妙なまでに上昇した背景
1年ほど前から2013年春までの状況ではどうだったでしょう?この間の10年債利回りは1.5%を少し超える程度の低レベルだったのです。NYダウの配当利回りのほうが最低1%以上も高かったでしょう。当時のNYダウ株価は今より低かったので、配当利回りは3%を超えていたかもしれません。このような状況であふれ出た巨額マネーを運用する機関投資家は、NYダウに投資するメリットを感じたことでしょう。安定・安全度でいえば国債に負けますが、株の中ではNYダウが世界で最も安全です。多少のリスクを考えても、NYダウに賭けるほうが良かったでしょう。結果的に配当だけでなく、株価も大きく上昇しています。これがNYダウの奇妙な上昇劇を演出して来た背景の一つだと思います。
そして、このような時期は終わりつつあります。2007年のように10年債利回りが5%を超えてもNYダウが上昇する、ということも、経済が十二分に強ければありえなくもありません。しかしそれは大変難しいことです。2007年、5%の金利を跳ね返すようにNYダウは上昇しましたが、やがてその圧力に屈するように力尽き、天井をつけました。その時の高値を抜いたのは、ようやく2013年の春になってのことでした。
量的緩和政策の縮小により長期金利が上昇
以上の状況をふまえると、ビッグマネーの運用者にとっては、国債利回りが低すぎた時期に魅力的だったNYダウへの投資は、もはやそうでもないと感じるでしょう。おそらくNYダウに流れ込むビッグマネーは減ると思います。もちろん長期的に見れば、NYダウは今後も最高値を更新していけると思います。なんといっても米国は、世界で一番、金、モノ、人を集める力があり、シェールガス革命でコスト優位にも立とうとしています。さらにビジネスに必要な各種資本が充実しているだけでなく、人々に「一発やってやろう」という気(アメリカンドリーム)を起こさせる土壌もある国です。
電気自動車のテスラ・モータース(TSLA)の会長でビリオネヤーでもあるイーロン・マスク氏は、南アフリカから徴兵を逃れて米国に渡ってきましたが、当初牧場の清掃係から、学位を得てシリコンバレーで企業し、すぐに若くして数百億円を手にしました。同氏は、このようなことは世界中でアメリカでしか成し遂げられなかったことだと言っています。米国企業の繁栄は長期にまだ相当長く続くと考えられます。
しかしながら、短期的に見た場合、上に挙げたような状況の変化からすると、NYダウは当面の高値をつけた可能性もあります。
そのターニングポイントは、2013年秋以降にFRBの量的緩和政策(QE)が縮小される見通しにより、債券価格が低下し、金利が上昇していることに他なりません。NYダウにこれらの逆風を跳ね返すだけの力(各企業に大幅増収増益と大幅増配が見られること)があるか次第となりますが、なかなかそれは厳しいでしょう。
参考:グローバルグロースレポート
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