国債・債券/債券の金利動向をチェックする

国の借金1000兆円でも国債金利が上がらない理由

少し古い新聞記事になりますが、2013年8月10日に「国の借金が初めて1000兆円を超えた」という報道がありました。前日の9日に財務省が「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高が1008兆6281億円」と発表したからです。キャッシュフローを中心として国債の金利を予測していますが、今回は国のストック(資産)面から国債の金利を予測してみましょう。

深野 康彦

執筆者:深野 康彦

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借金の額に市場はほとんど反応せず

借金の額にも関わらず金利が上がらない理由

借金の額にも関わらず金利が上がらない理由

国債や借入金、政府短期証券を合わせた「国の借金」の残高が2013年6月末時点で1000兆円を突破したと財務省が発表しました。国の借金は1981年度に100兆円を超えた後、19年かけて2000年度に500兆円を突破。そして13年かけて1000兆円突破と借金の増加ペースは加速しています。

2013年7月1日時点の総務省の人口推計(1億2735万人)を基に単純計算すると、国民1人当たり約792万円の借金を抱えていることになり、仮に4人家族であれば約3168万円もの多額の借金になるのです。

8月12日に発表されたわが国の2013年4月~6月のGDP(国内総生産)の速報値によれば、名目で479.4兆円、実質で525.9兆円です。GDPに対して名目で約2.1倍、実質で約1.92倍もの借金をしているのですから、これは大変だ!となるはずですが、発表前後の市場金利はほとんど動いていません。

財務省が発表している国債金利情報によれば、7年以内の金利は、発表当日と翌日(営業日)を比較すると若干金利が上昇していますが、8年以上に至っては逆に金利は低下しているのです。少し日を開けたとしても、とても借金1000兆円超えに債券市場が反応したとは言えないような穏やかな動きに終始している気がします。

国際機関では資産を引いたネット債務で判断

国の借金が1000兆円超えを財務省が公表した日、あるいは翌日には新聞、ニュースなどで大々的(?)に国の借金報道があったようですが、先に述べたように報道と市場の反応は正反対という雰囲気でした。本来であれば、もっと騒いでもおかしくはないのにと思った人もいたのではないでしょうか。

騒がれなかった理由は、財務省の発表に偏りがあったことがあげられます。IMF(国際通貨基金)などの国際機関では、国の負債の大きさを見る場合には、単純に負債額を見るのではなく、国が保有している資産を引いたネット債務で見るのが一般的だからです。

筆者はすべての報道を確認したわけではありませんが、ネット債務を報道した機関は皆無だと思われます。では、ネット債務を確認する場合、どうしたらよいのかと言えば、財務省が毎年作成している国のバランスシートを見ればよいのです。

財務省は、毎年「国の財務書類」を作成しており、その中に「国の貸借対照表」があります。直近の貸借対照表は2011年度末=2012年3月31日現在のものを見ることができます。


国のバランスシート

国のバランスシート


表は国の貸借対照表です。負債合計が1088.2兆円と財務省が公表する数字よりも大きくなっていますが、財務省が今回公表した数字は国の負債の一部に過ぎなく、国全体では2010年3月末に既に1019兆円と1000兆円を超えているのです。

借金の額はともかくとして、注目してもらいたいのは向かって右側にある資産合計の628.9兆円です。国は1088.2兆円も負債残高がある一方、資産も628.9兆円も抱えているのです。

しかも、現預金17.7兆円、有価証券97.6兆円、貸付金142.9兆円、運用預託金110.5兆円、出資金59.3兆円という処分しようと思えば処分することができる資産をたくさん保有しているのです。ただし、運用預託金は年金資産なので除きます。

処分できる資産を処分して債務圧縮が先決では?

仮に運用預託金を除く資産を処分すると317.5兆円になり、借金の返済に充当すれば770.7兆円にまで借金の額を圧縮することが可能になる。もっと言えば、仮にすべての資産を処分して借金に充当すれば、表の向かって右側の下から2番目、資産・負債差額の459.3兆円まで借金を圧縮できる。仮に459.3兆円になれば、対GDP比で名目約95.8%、実質で87.3%まで借金の割合は劇的に減るのです。

このことをマーケット参加者は知っているからこそ、国の借金初の1000兆円超えでもほとんど債券市場は反応しなかったのでしょう。国の借金額=負債額の報道が大々的にあったとしても、国債の金利が大きく動くことは当面はないと思われます。

本当にわが国が財政危機であるのならば、国の資産処分を行うのがまず先決だと思われてなりません。

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