両リーグ最速シーズン200奪三振を達成したダルビッシュ
奪三振数はインパクトとしては十分。このままいけば、ダルビッシュはサイ・ヤング賞の有力候補であることに間違いない
4月2日(同3日)の今季初登板、九回二死までパーフェクトピッチングを演じた敵地ヒューストンでまたも“あわや”だった。その要因は、「よく曲がってくれた」という宝刀スライダー。このタマを柱にして、ストレートとカーブをうまく織り交ぜて、若手中心のアストロズ打線を翻弄した。
問題は奪三振数だ。「アウトの1つなので何もない」と本人は無関心だが、現在のペースは驚異的である。先発23試合で200という大台到達は、大リーグ奪三振記録保持者(通算5714奪三振、シーズン最多383奪三振)のノーラン・ライアン最高経営責任者が1989年にマークした球団記録に並んだ。これで2002年のランディ・ジョンソン、カート・シリング(ともにダイヤモンドバックス)を最後に出ていないシーズン300奪三振も見えてきた。また、通算17度目の2ケタ奪三振は、ノーラン・ライアンの34回、ボビー・ウィットの24回に次ぐ球団歴代3位となった。
8月16日に27歳となったダルビッシュは、18日(同19日)のマリナーズ戦に先発し、7回1/3を投げ、7安打3失点。勝ち負けは付かなかったが、7三振を奪い、今季の通算三振を214個まで伸ばした。
ダルビッシュが三振を取れる3つの理由
では、ダルビッシュがなぜこれだけ三振を取れるかを検証してみたい。ストレートが速い、制球力がある、タマの切れがいいということは前提として、その先の凄さを取り上げてみたい。理由は3つある。
1つ目は、右腕を投げる瞬間まで極力隠していることだ。ボールをリリースするまでは、右投げでも左投げでもその利き腕をいかに体で隠すかが、打者にとっては打ちずらい条件となる。そのために投手は様々な工夫をして、利き腕を隠し、握りを見せないようにする。かつての村田兆治(元ロッテ)はテークバックした際にフォークの握りとわかっても打てなかったという例はあるが、これは特別。ダルビッシュはテークバックをコンパクトにして、とても見えづらくしている。
2つ目は、リリースポイントが非常に遅いことだ。投手はいかにボールを長く持つかに苦心する。ボールを早く離してしまうと、体重も乗らないし、制球も定まらない。ボールをできるだけ長く持つことによって、よりボールに体重が乗り、制球の精度が上がるばかりか、打者にとっては投手との距離がとても短く感じるのだ。楽天の田中将大投手もリリースポイントが遅いが、ダルビッシュはそれ以上に遅く、そこから制球の良さと球威が生まれている。
そして、3つ目は、投球の組み立て方だ。ダルビッシュは多彩な変化球を持つ。もちろん、ストレートのスピードも速いが、それを活かす変化球を多く持ち、どちらかといえば変化球ピッチャーだろう。ダルビッシュは試合の序盤で多くの変化球をあえて使う。その中からその日のいいタマ(切れる変化球)を2、3種類選び、試合の中盤からそれらしか投げない。ダルビッシュの変化球の多彩さは、すでに各チームとも知っているので、相手に「何を投げてくるかを惑わせる」ことが十分可能なのだ。その迷いが三振に大きく結びついている。
こうなってくると、日本人投手初のサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)受賞も夢ではなくなってきた。大リーグ歴代1位の通算511勝の記録を持つサイ・ヤングの功績を称えて1956年に創設されたこの賞は、記者投票で選出された年間最優秀投手に贈られる。選出基準はあくまでも記者投票なだけに明確ではないが、勝利数、防御率、イニング数、奪三振数などが加味され、とくに「インパクト」が重視されるといわれている。つまり、奪三振数はインパクトとしては十分であり、このままいけば、ダルビッシュは有力候補であることに間違いない。