あるとき、どーしてもスペインへ行きたくなった。しかも、首都マドリードではなく、バルセロナへ。TVや写真で見た、うようよと色のどよめく雰囲気が気になって仕方なくて、ガウディやらピカソやら、頭にカーンと来るような、無性にパワフルなものを見たくなった。
でも実際のバルセロナは結構しっとりとした街だった。もちろんあちこちにインパクトの強い建物があって、目を引く鮮やかさなのだけど、旧市街に入ったとたん静寂が訪れ、微かにギターの音が響いている、裏寂しさを合わせ持った街だった。
ところで私はミロが大好き(かといって芸術を語れるわけじゃなく、単純にあの配色に引かれているだけなんだけど)、マヨルカ島はバルセロナから飛行機で45分くらい、そしてミロのアトリエが生前のままに残っている、という情報をGETしたら行くしかないでしょう。
マヨルカ島は日本でいえば伊豆。見るからに”観光地”という風情にすっかりお気楽モードで、だらだらとぶらついていた。そんな行き当たりばったりで、ほっこり見つけてしまったのがこのお人形です。まるで紙粘土でできているような、あまりにもいいかげんな造りで、日本でいったら”ハニワ”?と思わせる、いかにも単純でのほほんとした姿カタチに妙な愛くるしさを憶えてしまったのでした。
後で聞いたところ、巨匠ミロもこの人形にインスピレーションを得て作った作品があるのだとか。確かにこのおおらかな風貌はどことなく似ているような気が・・・たった2色の大胆な色使いの潔さもミロ並み。ミロが作ったと言っても信じてしまいそうな味のある奇妙さ加減。
シウレルと呼ばれるこの人形、実は笛らしい。後ろに吹き口が付いている。
マヨルカ島の土産物屋には、どこへ行ってもこの人形が山ほど置いてある。どうやらここの名産品らしい。私が買ったのはせいぜい10cmくらいのだけれど、犬ぐらいの大きいものもあった。笛として吹くにはちょっと大変じゃないかなあと思うほどの重さ。海辺の観光地にありがちな、これでもかっていう堂々とした売りっぷりで、一歩間違うと本当にしょーもないような人形なのですが、この南国ムードに騙されてしまうのか、気付くと2、3体手に取っている。(そういえば、日本でも海辺の観光地ってときどきこういうどうしようもなくヘンテコなもの売ってますよね)。
このヘボかわいい人形達が、案外我が家のインテリアに馴染んでいる。玄関に並べられた、他の海辺のお土産(木で出来たおもちゃの灯台やヨット、海岸で拾った石など)と一緒に、のんびり佇んでいる。夜遅くに疲れて帰ってきても、この人形たちと玄関で目が合うと、今日も一日まあいっか、と気持ちを軽~くさせてくれるのです。
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