不妊症/不妊症の基礎知識・治療法・薬

不妊治療開始時から体外受精をすべきか?

先日、ある不妊専門クリニックの院長と話をしていたところ、こんな話をされていました。「この仕事をして20年を超えるけれど、昨年ぐらいから『初診で体外受精をしてほしい』と言われることが増えてきたんだよ」と。

執筆者:池上 文尋

『初診で体外受精をしてほしい』と言われることが増えてきた

先日、ある不妊専門クリニックの院長と話をしていたところ、こんな話をされていました。「この仕事をして20年を超えるけれど、昨年ぐらいから『初診で体外受精をしてほしい』と言われることが増えてきたんだよ」と。

私も不妊治療に関わるようになって19年目になりますが、当初は各医療機関はどうやって体外受精が必要な患者さんにそれをうまく伝えたらよいかと悩んでいました。体外受精は神を冒涜する治療だ! そんなことまでして子供はいらないという時代でしたので……。

「こんな時代がやってくるなんて、思ってもみなかった!」と驚きを隠せないドクターも多いようです。
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体外受精の図です。


患者の皆さんは知らないと思いますが、私は今、日本で大活躍されている不妊専門医の先生方が若い研修医やまだ修行の身の時をよく知っています。お金もなく、設備もなく、サポートも少ない中でなんとか妊娠率を上げたいと必死に夜も寝ずに研究されていた先生方の姿は今も忘れないです。

タイミング法、HMG-HCG療法、人工授精、体外受精、顕微授精すべてにおいてどうすれば1%でも妊娠率を上げられるかを研究されていたし、学会でも熱い激論を戦わせておられました。

それらの努力により、現在においては不妊治療はある程度のエビデンスが出そろい、どの治療においてもきちんと安定的な結果を出せるようになってきました。だから、35歳以下のまだ時間的余裕のある方や経済的に厳しい方はタイミング療法から治療した方が良いのです。それで妊娠する人も多いのです(ただし、不妊治療の得意な医療機関においてという条件がつきます)。

今、メディアでは視聴率や注目を集めている不妊というテーマを大きく派手に取り上げています。そして、高度生殖医療をクローズアップしています。また、クリニックにおいても効率化を図り、体外受精や顕微授精しかやらないという高度生殖医療専門施設も増えてきています。

だから、それをやれば「すぐに妊娠することが出来るに違いない」「それをやるべきだ!」と思って来院する人が増えていると思われます。

先生方と話していて、口々に言われるのは患者さんごとの知識レベルの格差です。40歳を越えているのに初診で来て、「自然妊娠したいんですけど……」という人も少なくないようです。

これはのんびりしすぎているケースでドクターも閉口してしまうパターンです。こういう方の場合、高度生殖医療への速やかな移行が妊娠を近づけますが、自然妊娠に固執するあまり、ドクターに「あ~、分かっていないな」と思われることになります。
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卵子老化の問題は不妊治療のメインテーマです。


逆に先ほどのごとく35歳以下でまだまだ色々とより簡易な治療法を試すべき人が「体外受精をやってください!」と来るケースも増えているということで、これも自分の身体の状況、経済状況、そしてやるべき治療スタイルについて、よく理解できていないということになります。


先生の提案してくれるベストな治療法とは?

そこで、不妊治療について、そういうテーマは苦手だし、自分で決められないと思われる方にアドバイスです! 主治医の先生に聞きたい事を聞く方法があります。


必ずこう質問してください。

「もし、私が先生の妹(娘)さんだったとしたら、どのような治療スケジュールでどのような治療を勧められますか? それを教えてください」と。


それが先生の提案してくれるベストな治療法だと思います。

不妊治療において、精神的負担、身体的負担、経済的負担を感じながら頑張れるのはせいぜい半年から1年です。その間に治療戦略的にどのように確率を上げるのか? これは専門家であるドクターの意見が大きく影響します。

ただ、35歳以下なのに体外受精や顕微授精専門のクリニックに行くのはある程度注意が必要です。婦人科系の疾患があり、体外受精を受けるべきであるとドクターからの勧めがある場合、その選択肢はOKですが、まったく初期の一般治療をしていないのにそのような決定をすることはかなりリスキーです。
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生殖補助技術は精子と卵子の出会いをサポートする技術です。


それはなぜかというと体外受精による障害もあるからです。それは経済的なものもありますが、体外受精じゃないと妊娠しないんだという思い込みが大きな問題になります。本来であれば、タイミング法や排卵誘発法で妊娠できる能力があるのに、変に高度生殖医療から開始してしまい、逆に治療レベルを下げられなくなった人を今までに多数見てきています。ある種の呪縛に囚われていると思われます。

また、体外受精は排卵誘発-採卵を行いますので、卵巣に負担がかかります。それも妊娠という面からは悪い影響を与えていることもあります。特に最近、自然周期排卵で10回も20回も連続で治療されているのを患者さん本人から質問されるケースも増えています。

こちらにもその事を書いておりますのでご参考にしてください。
体外受精の適正回数について(オールアバウト不妊症記事)

これは患者さん自身もおかしいと気づくべきだし、医療機関側もきちんと患者さんの身体を気遣い、ペースを配分してあげることが必要なのではないかと感じます。

最後にこの記事を読んだ皆さんにお願いです。もし不妊治療を開始されるのであれば、テレビやインターネットの情報だけに左右されるのではなく、ぜひ一冊はちゃんとした不妊治療の教科書的な本を読んでほしいと思います。それで分からないところに赤線を引いて、医療機関で質問するぐらいの事はやってほしいのです。

そうすると自分のやっている治療がよく分かります。そして、自分の治療がおかしいな、身体がおかしいなと思ったら、ぜひセカンドオピニオンで他のドクターに質問してください。まったく問題ありません。

ただし、主治医ときちんとコミュニケーションを取っていて、そう思ったらという条件付きです。主治医に聞かずに他のクリニックに聞くという方も多いのですが、それは本末転倒なので、ご注意くださいね。

私は今まで妊娠してきた方を見るとやはりきちんと勉強し、質問できる人が多い事に気づいています。それだけ主体的であり、妊娠について貪欲な姿勢が良い結果を生んでいるのだと感じます。

不妊治療の基礎知識を身につけるためのおススメ本は下記の通りです。ぜひご一読くださいね。

●不妊治療(男性も女性も)の基礎を学ぶ本
原因、検査、治療からこころのサポートまで 最新 不妊治療がよくわかる本

●男性不妊の基礎を学ぶ本
男を維持する「精子力」

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