雑貨/ハンドクラフト・工芸

東京・世田谷 工芸喜頓(こうげい きいとん)

昔からクラフトが好きだったという店主が開いた工芸品のお店です。日本の各地で見つけてきた、その土地らしさを感じさせる、実用的で個性豊かな陶器や工芸品が並びます。

江澤 香織

執筆者:江澤 香織

雑貨ガイド

レトロな雰囲気とモダンな雰囲気が漂う工芸店

店内の様子

店内の様子


東京、三軒茶屋から下高井戸の間を走る世田谷線は、どこかふわりと温かい、古き良き日本の懐かしさを思わせる風景が今もちらちらと残る沿線です。その上町駅から徒歩5分くらいの世田谷通り沿いに、小さな工芸の店ができました。外から眺めるとまるでモノクロ映画の中に出てきそうな、レトロな雰囲気の漂うお店です。扉に書かれた店名と文字フォントがそんな気分にさせるのかもしれません(写真には写ってないので、お店で確かめて下さい)。

さて、最初にどうしても気になってしまう店名「喜頓(きいとん)」とは、喜劇俳優のバスター・キートン、そしてそこから名を取った日本の喜劇役者、益田喜頓よりインスピレーションを得て、命名されたそうです。俳優はもちろん、音の響きや文字自体も好きだったとか。昭和の良き時代を匂わせつつ、モダンな雰囲気があり、笑い、喜びを連想させるポジティブなエネルギーに満ちた空間にしたかったから、とのこと。「きいとん」の「とん」は「とことん」をも連想させ、より楽しさ明るさを表現しているように感じたそう。また“頓(とん)”の字は「頓知(とんち)」など、人と同じではない、ちょっとひねりがあり、外した感じのニュアンスにも惹かれたそうです。確かに音の響きが心地よく、きいとん、とつい口に出して言いたくなる、親しみのある言葉に感じます。

自宅でずっと飾っていたという注連縄飾り。「笑門」の文字にも想いが込められて

自宅でずっと飾っていたという注連縄飾り。「笑門」の文字にも想いが込められて


店主の石原文子さんは、元々国を問わずクラフトが好きで、アフリカ、アジア、南米など世界各国のクラフトを集めていました。ファッションブランドの営業やマーケティングの仕事で、日本とパリを往復する日々を送っていたあるとき、パリのケ・ブランリ美術館で開催された日本の民芸を紹介する展示に目が止まり、釘付けに。日本にはこんなに素敵なものが沢山あったのか、と大きな衝撃を受けたそうです。それまで海外に向いていた目が、一気に日本へと関心が高まっていきます。

「そもそも民芸なんて全く知りませんでした。日本人なのに、最初の出会いはパリだったんです。それから民芸って何?に始まり、どんどん引き込まれていきました」

よくよく話してみると石原さんのご主人はなんと倉敷出身。民芸文化の色濃い地域です。普段から身近に民芸がある暮らしを営んでいました。早速ご主人と一緒に倉敷を訪ね、地元の民芸店でまた感動の体験をします。人の手による純粋で素直な工芸品、実用的なのに素朴で豊かな表情を持ち、今まで見てきた一般的な西洋食器にはない新しい魅力が感じられたそうです。

「本当に好きで好きで、倉敷を訪ねては器や工芸品をたくさん買っていました。あまりに私が好き過ぎるのを見かねた主人が『そんなに好きなら店やったら』という一言で決まったんです」

内装はシンプル。什器の棚は足場板を使用

内装はSUZUKI CRAFT 代表の鈴木信行氏がディレクション。什器の棚は足場板を使用


最初はオンラインショップからスタート。2011年に「日々の暮らし」を立ち上げ、民芸の買い付け・販売を始めます。しかし、人の手による工芸品は工業製品と違い、ひとつひとつが微妙に異なる風合いを持ち、それはオンラインショップではなかなか全て伝えきれないというもどかしさを感じるようになりました。自然の光に当てれば様々に表情が変化し、実際に手に触れることができればいっそう多様な器の魅力を感じてもらうことができます。そこでやはり実店舗で、と物件を探し、偶然見つけたのがこの場所。たまたま天井を抜いてみたところ、いい質感の木の梁が現れ、この天井に合うように、葉山の古道具屋で古材を探したり、広島の店で味のある足場板を見つけたりして、自分たちのイメージに沿って什器を作ってもらいました。床はビニールタイルが貼られていたそうですが、これも剥がしてみたら、土間のようなざらっとした感じが良かったので、そのままにしているそうです。棚の脇には小さな腰掛けスペースがあり、座ってゆっくり寛ぎながら器を選んでもらえたらうれしいとのこと。

天井の様子。時を経て変化した梁に味わいがあります

天井の様子。時を経て変化した梁に味わいがあります


ミニミニ小上がりスペース。倉敷のノッティングを敷いて

ミニミニ小上がりスペース。倉敷のノッティングを敷いて


陶器、ガラス、木工など、日本の各地で作られた様々な工芸品が並びます。石原さんの選ぶものは、持ったときに程よい厚みがあり、しっかりと安定感のある重さを持つ器。作り手の無作為でありながら、手の中の素材を自由に遊ばせ、楽しんでいるような雰囲気の器を選んでいるそう。また、家族みんなで使え、子供にも使ってもらえる安心感のあるもの、毎日普段に使えて、洗剤で普通にじゃぶじゃぶ洗える気楽なものをと思っているそうです。

「私の家でも子供が小さいときから気負いなく使っています。民芸の器はお値段も良心的だと思いますよ。それから私の選ぶ器は、質感などが他の店と違うね、とときどき言われます。すらりとソツなくこぎれいなものより、焼きがくっきりと出ていたり、渋くてどっしりした味のあるものが好きなんですよね。だからなのか、男性のお客さんも結構多いです」

平皿、小皿、茶器、酒器など種類豊富。手前のユーモラスな富士山の皿は島根の袖師窯

平皿、小皿、茶器、酒器など種類豊富。手前のユーモラスな富士山の皿は島根の袖師窯


引き出しの中にもたくさん。見たいときは気軽に声をかけて下さい、とのこと

引き出しの中にもたくさん。見たいときは気軽に声をかけて下さい、とのこと


まだ4月にオープンしたばかりですが、既にやりたいことがムクムクと沸き上がり、アイディアが次々浮かんでいるそう。お酒も大好きという石原さん。夏にはガラス器を使ったお酒のイベントなどを考案中。また、フランスに多くのつながりを持っていることから、日本のものを海外の工芸品やアンティークとミックスさせた提案などもしてみたいとか。夏に向けてガラス器もじわじわ充実してくるようなので、これからの季節に良いと思います。

ガラスの大きなビアジョッキはかなりの種類を揃えているそうです

ガラスの大きなビアジョッキはかなりの種類を揃えているそうです


上町には世田谷通りをさらに行った先に「夏椿(なつつばき)」という器屋さんもあります。また、「grame(グラム)」「Zanny(ザニー)」「FER TRAVAIL(フェール トラヴァイユ)」等アンティークショップが多いエリア(冬には世田谷ボロ市が開かれる地域)。そして、工芸喜頓から道路を渡ったすぐ先には「YOTSUHA(よつは)」という手作りの焼き菓子屋さん、上町駅寄りには「SODO(ソド)」という美味しいコーヒーが飲めるカフェがあります。合わせて散策しても楽しいでしょう。

■工芸喜頓
東京都世田谷区世田谷1-48-10
TEL:03-6805-3737
http://www.kogei-keaton.com
営業日時:水曜~土曜日 12:00~18:00
定休日:日、月、火、祝日
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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