試し書きには見どころが沢山ある

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今回、取材にご協力頂いた、試し書きコレクターの寺井広樹さん

文具店や文具売り場の筆記具を売っている棚の近くには、大体、ペンの試し書きが出来る用紙が置いてあります。万年筆売り場などの場合、かなり本格的な紙を出してくれる所もありますし、レシート用紙がずーっと敷いてあったりと、扱いはそれぞれですが、もう、ずっと前から、ペンは試し書きしてから買う事が出来る製品でした。これから買う製品を、実際に試して、使い比べてから選べるというのは、とても有り難い事ですし、だから試し書きそのものも楽しいイベントだったりします。
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寺井さんがアイルランドで入手した試し書き。専用の用紙が本格的

寺井広樹さんは、世界中、どこに行っても文具店やデパートで、試し書き済みの紙をもらってきて、それを収集している、「試し書きコレクター」です。そのコレクションは、ただ眺めているだけでも、お国柄や、書いた人々のキャラクターが浮かび上がる、とても楽しいものですし、そこに使われている紙もそれぞれ、筆記具も色々なので、細かく見ていっても興味が尽きません。可愛いアイコンもついた試し書き専用の紙を用意しているアイルランドの文具店、クリーム色のデッサン紙のような紙を使って、鉛筆の試し書きが出来るドイツのお店、システム手帳のリフィルや手帳の紙を使って、実践的な試し書きが出来るアルゼンチンのお店、など、本当に見どころ沢山なのです。

何故、人は試し書きでぐるぐる書くのか

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スペインの試し書き。ラミーのメモ用紙全体にぐるぐるが

そうやって、様々な試し書きを見ていると、いくつかの共通点に気がつきます。まずは、世界的に「ぐるぐる」書く人が多いということ。そして、文字や絵を書いているのは、カラーペンや鉛筆が多いのです。これを見ていて思い出した事があります。それは、かつて、ボールペンの試し書きは、そのペンのインクがちゃんと出るのか、書いていてダマになったりしないか、線が途切れないか、といった、ボールペンの性能自体をチェックするものだったという事です。試し書きは、「書き味」を試すものではなく、実用品として使えるのかをチェックするためのものだったのです。普通にインクが出ないペンだってあったわけで、そういう部分をチェックするなら、試し書きは「ぐるぐる」で構わないわけです。
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ベルギーの試し書き。ラインマーカーなどの色をチェックするタイプの試し書きが多い

一方で、カラーペンや色鉛筆の場合、色を確かめる必要があります。自分が欲しい色なのかをチェックするわけです。その場合は、「ぐるぐる」よりも具体的な形や、普通に線を引く方が分かりやすいのでしょう。また、色を求める方は、絵心がある方が多いのかも知れません。もちろん、「書き味」をチェックする方も昔から相当数いたとは思うのですが、多くの人は、ボールペンに対して、それほど厳密な「書き味」を求めていなかった、というよりも、あまり意識していなかったのだと思います。それは、つい最近まで、自分がどこの何というペンを使っているかを意識していない人が圧倒的に多かったことからも伺えるのでは無いでしょうか。

現在の試し書きの始まり

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ペルーの文具店のロゴも入った用紙には、文字による試し書きが。これは書き味をチェックしているのかも知れない

多分、ボールペンの書き味について、多くの人が意識的になったのは、三菱鉛筆の「ジェットストリーム」の発売がきっかけではないかと思います。ちょうど同じ頃に、手帳ブームや、不景気による会社のボールペン支給が減るといった、筆記具に注目が集まる状況にも始まっています。また、低粘度油性ボールペンは、その書き味が売りでもあるので、試してもらう事が重要でした。その後、いっせいに、様々な新しい書き味のボールペンが出た事も、試し書きに対する意識を変えたというか、それまで試し書きをすることのなかった人々にも試し書きをする習慣がついたのだと思うのです。
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カナダの黒い紙に書かれた試し書き。ラメ入りのゲルインクペンなどの色の確認だろう。日本でも一時期大流行した

その10年くらい前、パイロットの「Hi-Tech-C」に代表されるゲルインクのボールペンが出た時が、最初の製品チェックではない試し書きの始まりだったと思います。この時は、線の細さと、発色具合が、試し書きの重要なチェックポイントでした。寺井さんのコレクションでは、カナダやオーストラリアのもので、黒い紙を使った試し書きがありますが、ゲルインクの蛍光タイプのインクで、黒い紙に書くのが流行した時代以降、今でも、日本でも黒い紙の試し書きスペースは、普通にありますよね。このあたりは、発色のチェックのための試し書きです。筆記具に対して、積極的に「どこの何を使う」、という意識が一般化するのは、このゲルインクによる発色の比較と、そのさらにもう少し前の、ミリペンから始まった、均一な細い線がきちんと書けるか、というあたりから始まったような気がします。つまり、ボールペンの試し書きが「書き味」を確かめるというスタイルになったのは、かなり最近の事なんですね。

ガイド納富の「こだわりチェック」

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このドイツの試し書きはデッサン紙のような紙に鉛筆で描かれている。これは紙の試し書きかもしれない

一方で、万年筆の試し書きは「どのペンが自分に合うのか」という部分や、ペン先を自分に合せてもらうとか、合うペンを店員さんに選んでもらうためといった、かなり沢山の要素が含まれていて、ボールペンの試し書きとは全く違うものです。もちろん、今後、ボールペンも、店頭で、店員さんと相談しながら、「そういう書き方なら、こちらのペンはいかがでしょう」といったやり取りをしながら選ぶことが出来るお店とかも出てくるかも知れません。ただ、世界の試し書きを見ていると、まだまだ、ボールペンは消耗品なのだなと思いますし、消耗品だからこその良さも沢山あると思います。お気に入りの一本が、本当に一本しかないというのは、実はかなり消耗する話ですし、何本も買っておける、なくても代わりになる何かはある、というのは、とても有り難い事ですから。

試し書きは、良く書く文字が良いとか、座って書くと良いとか、色々ありますが、考えてみれば筆記具、特に普段使いのボールペンは、使う人によって使うシチュエーションも様々。そして、ボールペンに要求するものも様々です。寺井さんのコレクションは、そういう試し書きの原点のようなものを考えさせてくれます。線の太さを見たかったら、文字より、ただ線を引く方が良いかも知れません。追従性を見るなら、文字より絵の方が良さそうです。インクフローを見るなら「ぐるぐる」も効果的。そして、純粋に書き味を見るには、まだ試し書きとして用意されている紙の質が今一つです。実際、筆圧が軽い人などでは、書き味は、ペンよりもむしろ紙の影響の方が大きいくらいですから。ただ、最近は、もはやボールペンの書き味で言えば、日本の100円から200円の製品が、世界最高品質に達していますから、それを味わってみる価値は十分あると思います。もちろん、詳細に書き心地を味わいたいなら、試すのではなく、購入する方が、もっと楽しいのは言うまでもありません。

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