<ポイント2>
中小企業の「受け皿」をどうするか
次に問題となるのは、中小企業の受け皿づくりです。厚生年金基金の多くは、中小企業となっており、統計によれば約11万社の中小企業、1社あたり社員40人程度となっています。こうした会社で働く会社員にとって厚生年金基金は、退職金の一部を外に積み立てる意義がありました。いわゆる退職金制度は、実際のキャッシュを計画的に貯めておく強制はなく、社員が辞めたたびにお金を準備して払う仕組みになっています。つまり、会社がつぶれたとき、退職金をもらえない可能性が高いということです(労働債権なので優先的にもらえるのですが、実際には会社の金庫が空っぽになってからつぶれるので未払い給与をもらえばラッキーということが多い)。
企業年金は外部にお金を積み立て、管理運用するので、会社が倒産しても資産が守られるメリットがありました。しかし、厚生年金基金を廃止することで、中小企業の社員の退職金(退職金を年金受け取りするのが企業年金なのでほぼ同一といっていい)の保全体制が一歩後退することになります。
今後、「外部積み立てしたほうが社員のもしものときには安全」である視点から企業年金を充実させていくことが必要です。しかし同時に「企業年金自身もその資産がきちんと守られるか安全な仕組み」を作って運営していかなければなりません。
21世紀に入ってからスタートした確定給付企業年金、確定拠出年金はいずれも財産の保全体制に一定のめどをつけていますが、ポスト厚生年金基金としてこうした制度を含めて中小企業に受け入れられるかどうか対策が問われます。
なお、2012年3月に制度終了した適格退職年金は中小企業に利用されてきましたが、移行が十分に進まず約4割が廃止されたともいわれています。
<ポイント3>
さらなる規制緩和が実現するかどうか
企業年金の柱のひとつについて廃止ないし縮小を行うわけですから、現状の制度についても、使い勝手の向上を実現する規制緩和が必要です。専門委員会においては、確定給付企業年金の制度設計に関する規制緩和と、確定拠出年金の投資教育義務に関する規制緩和の提案がありましたが、現場ではあまり評判を呼びませんでした。個人的には、抜本的な法律改正もさるところながら、現状の制度の延長戦での規制緩和を繰り出していくことも重要ではないかと思います。例えば確定拠出年金については、拠出限度額の引き上げ(マッチング拠出の利用範囲拡充)を行ったり、中小企業向けに利用条件の緩和等を行えばかなりのメリットがあると思います。
専門委員会の議論は、厚生年金基金の代行の処理問題のほうに議論が集中してしまい、こうした規制緩和についてはあまり時間が割かれていないところが気になります。「ポイント2」と関連していますが、中小企業にとっても利用しやすい規制緩和が必要です。
今回の委員会の結論が、「厚生年金基金の廃止問題」にとどまらず、さらにその先の「企業年金の今後のビジョン」を示せるかどうかは、企業年金の規制緩和についてどこまで書き込めるかにかかっているといえるでしょう。
法案提出が3月にあるか注目
企業年金制度改正は今年の予算と直接関わらないことから、予算関連法案が一巡した後に、通常国会に提出されることになるでしょう。概ね3月から4月あたりです(今年は1月ほど遅れる可能性もあるのでちょっと予想しにくい面もある)。このとき、企業年金改革に関する法案が出るか出ないか、あるいはどのような法案が提出されることになるのか注目が集まります。
もちろん、その法案が可決・成立することになれば、企業年金業界にはまた大きな変化が訪れることになるわけです。日本版401k成立においては、2000年から2001年にかけて議論が行われました。もしかすると10数年ぶりにそうした議論が必要な時期が今なのかもしれません。