まず、担当医に眼科医を紹介してもらいましょう。気づかないうちに糖尿病網膜症がすでにあれば、急激に血糖値を是正すると逆に悪化することがあります。網膜内の虚血や出血が強まるおそれがあるのです。
110人の2型糖尿病者を対象に、インスリン強化療法による6年間の厳格な血糖コントロールの成果を調べた熊本スタディにおいて、網膜症の憎悪率が一番低かったのは1ヵ月あたりHbA1cを0.5~1%のペースで改善することでした。それ以下のスローペースでも、それ以上のハイペースでも網膜症がより多く進行したのです。いつ発症したか、患者も医師も分からない2型糖尿病では、治療計画を決めるときは眼科医の診断が欠かせません。もちろん、糖尿病のある女性の妊娠計画の時は絶対に必要です。
そもそも糖尿病網膜症って?
糖尿病網膜症は、糖尿病の三大合併症のひとつであり、成人中途失明の原因のトップです。年間3000人以上が、この病気によって視覚障害になっています。目に入った光は水晶体(レンズ)で一点に集められて網膜上に像を結びます。このカメラのフィルムに当たる網膜は無数の細小血管で栄養補給されています。高血糖が続くと、この細小血管が損傷されて血管が漏れたり詰まったりします。つまり、出血したり網膜がむくんだりするようになるのです。この段階を単純網膜症といいます。
この状態が続くと、体は血液が届かないところに栄養素や酸素を届けようとして新生血管を伸ばし始めます。これが網膜や硝子体の内に生じて、硝子体出血や網膜剥離を起こすと、視力障害に陥ります。
ここまでくると、増殖網膜症になる危険性があります。最適なタイミングでレーザーによる網膜光凝固の手術を行えば、網膜症の進行を止めたり遅らせることができるかもしれません。
糖尿病による眼疾患の予防と診断のために眼科検診を受けると、次のような検査が行われます。眼科の診察室は暗幕で締め切られていて、多分なんの説明もなく、いきなりまぶしい光を目に当てられますから、何を診ているのかよく分からないと思います。知っていれば安心ですから。
特に初診の時は次のようないろいろなことを調べてくれています。もちろん、通常の検査は痛いことはされません。
糖尿病眼合併症を予防する定期検査
- 視力検査 基本のキですが、ゆっくりと視力が落ちると自覚できないものです。また、日常は両眼で見ていますから、片目の視力低下に気づくのが遅れます。近視で眼鏡を使用している人は、視力が落ちたらレンズの度を上げればいいと思いがちですが、糖尿病患者や高齢者は別の原因(白内障など)によることが多いので軽く考えないように。視力が落ちるのはどこかに原因があるはずです。
- 眼球運動 眼球がどこまで動けば正常かという決まりがあります。糖尿病患者では神経まひがあるため、ものが2つに見えたり、まぶたが上がらなくなることがあります。
- 屈折・調節異常 糖尿病患者の水晶体(レンズ)の屈折が正常でないことがあるのは昔から知られていました。知らぬ間に高血糖が続いていたために物が見にくくなることがあります。血液コントロールのために入院している患者が急激に血糖を下げると一過性の遠視化を起こすことがあります。
- 緑内障 空気圧による眼圧検査がよく行われています。糖尿病患者に特徴的なのは網膜症に起因する新生血管緑内障が多いことです。
- 白内障 40歳以下の1型糖尿病者に見られる進行の速い真性白内障と高齢者に多い糖尿病白内障、そして、高齢糖尿病が白内障を合併している場合など、白内障は高血糖と関連が深いものです。患者があごを固定して、細い光源が動いて前眼部を調べる細隙灯顕微鏡(写真)で診ています。
- 眼底検査 糖尿病網膜症は細小血管の病気ですから眼底全体に及んでいます。そのため眼底全体を短時間に観察できる単眼倒像鏡(写真)がよく使われています。眼科医が片手に光源、片手にレンズを持って迫ってくる検査がこれで、眼底病変を調べてくれているのです。
細隙灯顕微鏡
白内障や詳細な網膜、浮腫などを観察します
単眼倒像鏡
眼底全体を短時間で観察できます
眼の合併症は患者に自覚症状が現われた時には、もう元に戻すことが難しい時点なのです。そのため、目を守るには定期的に検査を受けるしかありません。眼科医から年1回とか6ヵ月毎に来るようにという指示がありますから順守しましょう。診察を受けていれば、それほどひどいことになることはありません。