J1優勝の広島と2位の仙台に見る共通点
長期政権を築く監督たち。世界のサッカーの、J1リーグの、監督事情とは?
自身初の監督就任で、いきなり優勝へ導いた森保監督の手腕は、もちろん高く評価されるべきである。ただ、そもそもゆかりの深いクラブだったことが、成功を後押ししたのは間違いない。前監督から現監督へのスムーズなバトンタッチを、優勝の要因から外すことはできないだろう。
その広島と優勝を争ったベガルタ仙台は、就任5年目の手倉森誠監督がチームを率いている。就任時に掲げた「5年でアジアチャンピオンズリーグ(ACL)に出場する」という公約も、5年目となる今シーズンにきっちりと果たした。
仙台の強さは継続性であり、継続性を土台とした編成力にある。
いわゆるセンターラインと呼ばれるゴールキーパー、センターバック、ボランチ、ストライカーに軸となる選手を据えつつ、複数のポジションに対応できる選手を揃えていった。その結果、出場停止やケガなどのトラブルに強いチーム体質となり、長いシーズンを大きな浮き沈みなく駆け抜けることができた。
同時に、試合中のフォーメーション変更に柔軟性が生まれていった。日本代表に定着している選手こそいないものの、幅広い戦い方のできるチームとなったのである。昨年の東日本大震災が大きなモチベーションとなってきたのは間違いないが、上位に食い込むだけの地力も備えているのだ。
選手の入れ替えでマンネリ化を打破
広島や仙台だけではない。継続性重視のチーム作りは、J1リーグでひろがりを見せている。2011年にJ1初優勝を飾った柏レイソルは、ネルシーニョ監督の続投を発表した。09年途中に就任したこのブラジル人監督のもとで、2013年のレイソルは5シーズン目を迎えることになる。
2010年のリーグ覇者である名古屋グランパスも、ストイコビッチ監督が引き続き指揮をとることが明らかになっている。08年からチームを束ねる指揮官は、クラブ最長となる6年目のシーズンへ突入する。
同一監督が長期間にわたってチームを率いると、チーム内に閉塞感が漂ったり、マンネリズムに陥るととらえられがちだ。しかし、監督は同じでも選手が入れ替われば、チーム内には新しい空気が吹き込まれる。
日本代表の香川真司が所属するマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)のアレックス・ファーガソン監督は、“赤い悪魔”の異名を持つこのクラブを1986年11月から率いている。今シーズンで実に26年である。それでも、絶え間ない大型補強を繰り返すことで、チームは活性化されているのだ。
同じくイングランド・プレミアリーグでは、かつて名古屋グランパスを指揮したアルセーヌ・ベンゲル監督も長期政権を築いている。1996-97シーズン途中から、ロンドンの名門アーセナルを牽引しているのだ。
彼のチーム作りは、日本人指導者にも大きな影響を与えている。二つ以上のポジションをこなせるオールラウンダーを重用するのは、ベガルタの手倉森監督にも見られるチームマネジメントの手法だ。また、大胆なコンバートによって選手の才能を引き出すのも、ベンゲルの特徴にあげられている。
監督交代の効果とデメリット
マンチェスター・ユナイテッドやアーセナルのようなクラブがある一方で、監督交代が絶えないクラブもある。代表的なのはチェルシーだ。昨シーズンのヨーロッパ・チャンピオンズリーグを制し、12月開幕のクラブワールドカップで来日するイングランドのビッグクラブは、毎シーズンのように監督が交代している。オーナーであるロシアの大富豪アブラモビッチ氏の意向が、監督の去就に色濃く反映されているのだ。
J1リーグに視線を戻すと、残留争いの渦中にあるヴィッセル神戸、ガンバ大阪、アルビレックス新潟は、いずれもシーズン中に監督を交代させている。神戸は今シーズンだけで二度の交代劇を演じた。
シーズン中の監督交代には、決して小さくないリスクが伴う。チーム内の緊張感が高まり、新たな競争が芽生えるといった効果が望めるものの、新監督が考え方を浸透させる時間がないというデメリットも生じる。
J1リーグで優勝する、J1残留を果たすといったクラブごとの目標を達成するには、相応の戦力を整えることが前提条件となる。そのうえで監督の力量を問うならば、ある程度の猶予期間は必要だ。戦力的に見劣りするチームならばなおさらである。広島と仙台の成功が裏付ける継続性重視のチーム作りは、他クラブのモデルケースとなっていくに違いない。