詳細をみるとまだまだ「?」ばかりの集団運用型DC
アイデアとしておもしろい集団運用型DCですが、実行にあたってはまだ紆余曲折がありそうです。少なくとも下記の点で不明確な部分があり、簡単に法改正ができるとは思えないからです。まず、試案においては「資産運用委員会」のような専門的機関を間に挟むことで、会社の投資教育責任は回避できる、としている点に疑問があります。この組織、確定拠出年金を実施する企業ごとに設置し、労働組合や社員の代表が参画、必要に応じて資産運用に関する専門的知識を有する外部メンバーを入れる、としていますが、適切な見識を有して商品を選べることを誰が担保するのか、という難問があるからです。
外部のメンバーも、金融機関の人間が入れば中立的な商品選びができるか疑問ですし、第三者のような外部の人間に謝礼を払えばコストがかかります。
また、会社がこの組織に関わらないことを想定しているようなのですが、専門性の不足が結果として社員の運用の選択肢を悪いものとしてしまった場合、社員代表となった委員はとても重い責任を持つことになります。そう簡単に資産運用委員会の重責を担える人材が集まるでしょうか。
この仕組みが中小企業向けとされていることが話をさらにややこしくします。中小企業には労働組合がないことも多く、個人レベルで社員の誰かが代表して委員となり、かつ商品選定の責任を負えるかどうか。かなり不安です。
もちろん、会社が関与すれば会社に責任を負ってもらわなくてはなりません。会社に気軽に確定拠出年金を採用してもらうためには、肩の荷を下ろせる選択肢が必要なので、会社にはノータッチでいて欲しいのです。
そもそも、絞り込みをしたとしても複数の運用の選択肢が提示されるわけですから、社員はそれを選ばなくてはなりません。選ぶ、という行為を行うためにはやはり投資に関する知識が必要です。基礎的な投資教育も必要ですし、制度に関する教育も必要でしょう。簡単に「投資教育義務なし」と言うことも難しいのではないでしょうか。
そして、こうしたアイデアを現在の確定拠出年金法にどうやって織り込んでいくかも難しいところです。現在の法律のスタンスとまったく異なる概念を持ち込むことになるからで、「すでに制度導入している会社は集団運用に制度変更できるか?」といったことも考える必要があります。
まだアイデアレベルで議論はこれからだとしても、詰めの甘さが気になるところです。
議論はこれからだが、400万人以上に影響する話だけに注視したい
先に疑問点ばかり挙げましたが、実は集団運用型DC案について基本的には賛成だったりします。世界的には企業年金の業界では「100%個人の自己責任」というスタイルから「パターナリズムの採用によるお節介」スタイルへ変化が起きつつあるからです。
個人に付け焼刃の教育をしたところで、合理的な判断をできるとは限りません。そもそも本業としての仕事に集中したり、家庭のために時間を割きつつ、資産運用にも全力を注いだりすることは困難です。
イギリスでは老後資金準備が不足している中小企業の会社員については強制積立の制度が採用されました。アメリカでは401kについて強制加入・強制積立率指定・強制的な投資信託購入(ただしいずれも後からキャンセル可能)という仕組みを認めました。
いずれも目の前の生活だけに目を向けてしまうと、きちんと将来に向けて備えていかないため、お節介だとしても国や会社が個人の資産形成に介入しようとしています。「集団運用型DC」のその観点から考えると捨ててしまうには惜しいアイデアです。
もし私が「日本版集団運用型DC」を作るのでしたら、ベースは現状の確定拠出年金制度としつつ「年代別に投資信託商品を固定し強制的に提示し購入させる(例えばターゲットイヤー型の投資信託を活用する)」「当該商品が中長期的に運用収益を上げられるかどうかは労使で検討し選定する(どちらか片方だけが責任を背負わない)」「社員が希望しない場合、従来の多様な商品選択肢の中から自由に乗り換え可能(好まない人の拒否権は残す)」「投資教育については現行よりシンプルなものを整理・定義し、実施負担を下げる(その代わり5年に一回程度は実施を義務づけ)」といったイメージを描きます。
これは「ヤマサキ試案」というべき個人のアイデアなので、採用されるとは思えませんが、議論に何か役立つならいいなと思います。
いずれにせよ、「厚生年金基金制度に関する専門委員会」の動向、今後も注目したいところです。次回は11月19日午前に開催です。