中小企業に企業年金は大事だがこのままいけば消えていく
中小企業の社長さんは社員の退職後の受取額を増やしてあげようと厚生年金基金に加入したわけですが、結果としてお金のかかる割に増額にはあまりつながらない結果となりました。しかし、厚生年金基金に加入した中小企業を責めるのはやや酷のように思います。もともと中小企業にとって企業年金は制度採用のインセンティブがつきにくい制度です。外部に積み立てたお金は資金繰りに使えなくなりますし、計画的に給与以外の支出を求められます。儲かったときだけ大きく積み上げ、利益が少ない時期は積まないような裁量は許されません。企業年金制度の税制優遇は強力ですが、数十年にわたって企業を存続する体力がなければ必ずしも魅力には見えません。
中小企業の経営者に対して「企業年金をやったほうがいいね」と思わせることは実はとても難しいことです(企業年金の設置義務はない)。今まで厚生年金基金が取り組んできたことはストップさせてはいけない重要な取り組みです。しかし、ここまで企業年金を活用してきた中小企業が今回の手痛い教訓として「企業年金はもうやめよう」となることが今心配されています。
適格退職年金制度は50歳の誕生日に制度が廃止となりましたが、移行期間のあいだ、約4割の制度が廃止に追い込まれ、350万人ほど利用者が減少したとみられています。同様のことが現状の厚生年金基金で生じるとすれば、150~300万人以上の企業年金がなくなる可能性があります。
企業年金は積立不足があったとしても8割以上の資金を外部に保全しており、中小企業の倒産等に際して退職時の資産を守る手段でもあります。社員にとっても重要です。むしろ、中小企業に先に用意すべきは厚生年金基金の廃止の道筋より、企業年金を採用しやすく、維持しやすい仕組み作りだと思います。
何ごとも終わらせ方は難しい
現状においてもっとも難しいのは積立不足の問題です。積立不足を安易に国に引き継げば厚生年金の財源ないし国の税金でこれを穴埋めすることになるとして批判があります。しかし、440万人の雇用をしている中小企業11万社にそのツケを全て負わせるのも社会的には不利益が大きいように思います。最初に述べたとおり、地域経済の活力を失わせ、たくさんの雇用を失うデメリットが大きすぎるからです。(中小企業支援の観点から考えると、私は国庫で一部補てんするか、国庫で低利の融資枠を設定して支援することがあってもいいと考えます)また、この積立不足は株価の動向に大きく左右されるものです。リーマンショック直前の時期には、全国のほぼすべての厚生年金基金が積立不足はほとんどありませんでした。わずか3年くらいで約1兆円の積立不足が積み上がってしまうのがわが国の年金制度のスケールの大きさであり、世界の経済環境の動きの速さなのです。
日経平均が1万3000円くらいまで一度回復すれば積立不足は半減し、「厚生年金基金は存続可能だ」という議論が主流になりかねないほど、あやふやな世界で私たちは制度の今後を議論しています。しかしその影響を受ける会社員と年金受給者にはその後の数十年の生活に支障が出ます。検討が近視眼的なものにならないよう注意が必要です。
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いずれにせよ、スタートしたときは単純な仕組みも、40年以上継続して巨大化・複雑化したものを終了させるのはそう簡単な話ではありません。終わらせるためには莫大なエネルギーがかかります。
正直いって、天下りだろうと、業界団体の職員だろうと、今回の運用の問題についてはほとんど結果の差は生じなかったと思います。AIJ被害を受けた厚生年金基金も同様の傾向が見られます。問題はそこにはあまりありません。
また、過去の厚生年金基金の「いいところ」が将来の存続を約束する必要はありません。しかし、乱暴な議論が制度をおかしな方向に追い込まないことを期待します。