がんの治療の特性
がんの治療は良性腫瘍と異なり、再発・転移を念頭に置いて、根気よく行うことが重要です。
がんは良性の腫瘍に対する治療と異なり、予定された治療を終了しても、一定期間は「再発・転移」ということを念頭に置いて補助的な治療を必要とするケースが少なくありません。
たとえば、脂肪腫という良性腫瘍の場合、いくら大きくてもそれを切除してしまえば基本的に治療はそこで終了です。しかし、胃がんであれば、いくら小さくてもそれを切除したあと、顕微鏡の検査結果も踏まえて、必要に応じて抗がん剤や放射線治療を行いますし、それらが終了しても、手術から5年間は再発・転移の危険性があることを忘れずに厳重に経過を見ていく必要があります。
通常、このような補助療法には抗がん剤治療や放射線治療が用いられますが、残念ながら再発・転移してしまうケースも存在します。近年、この再発・転移予防に「免疫」という観点からの新しいアプローチがあるのではないかと考えられています。
がんと免疫の関係
がんと免疫は、健康保険が適用される一般的な治療法の中では、ほとんど着目されていません。しかし、基礎研究の分野ではがんと免疫の関係についてはかなりのところまで解明されており、治療後の免疫力ががんの再発・転移に影響すると報告されています。とはいえ、一般の方には少しわかりにくいのも事実ですので、少し例を交えて解説いたしましょう。
基本的には、がんは細胞のミスコピーで起こります。通常、私たちの体の中では毎日1000-2000個のミスコピーは起こっていると言われていますが、それらは私たちが持つ免疫の作用でそれらのミスコピーされた細胞を攻撃しています。
免疫とは自分と自分で無いものを見分けるメカニズムのことですが、がん細胞はもともとが自分自身の細胞であるために見逃されやすいのです。一つでも見逃されると、1コのがん細胞が2コ、4コ、8コ、16コ……と増えていきおおむね10億個(直径1cm、重さ1g)程度になったときに、レントゲンや超音波検査、CT検査などで「再発・転移あり」と診断されます。
がんができたり、再発・転移したりということには、この免疫のメカニズムがうまく働かなくなる、すなわち「免疫力」が低下することに関係しています。
すなわち、発生するミスコピーの量が多すぎる、ミスコピーかどうかを「見分ける力」が落ちてしまう、ミスコピーを「攻撃する力」が限界になるという3つの要素を考えればよいのです。
実際に乳がんの患者さんなどでも、「免疫力」が低下していれば、がん治療の予後に影響を及ぼすことが報告されています(右図参照)。