積立不足を払って脱退するなら影響はないのか
ところで、企業が厚生年金基金を脱退するとき、社員にかかる積立不足を応分負担するとすれば、厚生年金基金にとっては、脱退する人の文の積立不足を回収した、ということですから、制度の運営には支障がない、ということも考えられます。ただし、これは負担してもらう積立不足をどう計算するか、にもよります。もし、脱退が相次ぐと財政が悪化するというなら、それは負担してもらう積立不足の計算式がおかしいのかもしれません(もちろん、必要な額より多く徴収することは問題があるので、適正な計算が必要です)。任意で脱退して積立不足を負担するのと、解散後に積立不足を負担するのとでは、計算式が異なるので、有利なほうはどっちか真剣に悩んでいる会社もあるそうです(解散は一企業の一存で決められないので判断は難しい)。しかし、理屈としては、どちらも同額になるはずなのに、おかしな話です。
「脱退が相次ぐと、制度運営が立ちゆかない」と考えている人は、一度検証をしてみる必要があるように思います(脱退が相次ぐことでスケールメリットを損なう問題はありますが、すでにスケールメリットのない規模の企業年金も多い)。
そろそろ役所が問題の整理をすべき課題か
もともと、厚生年金基金に加入すると、「厚生年金と同程度の保険料で、厚生年金以上の給付をもらえる+その他のサービスもついてくる」という仕組みでしたから、脱退を希望する会社があることなど、法は想定していませんでした。脱退に関する規定は厚生年金基金ごとに定めることとし、脱退希望企業が積立不足を負担していくこと等の義務だけを法は明確にしてきました。
多くの厚生年金基金では、理事会や代議員会の承認を要件としており、意図的に脱退を認めないような運用が可能となっていました。訴訟トラブルが増えている要因のひとつです。
そろそろ、役所は厚生年金基金に脱退事業所の取り扱いについて統一的な基準を示す頃合いかもしれません。厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議が6月末まで行われましたが、議論すべき事項はまだたくさんあり、脱退問題もそのひとつといえます。
企業の人にアドバイスと注意点をひとつずつ
最後に、「うちも脱退しようかな?」と考えている企業の担当者に向けて、アドバイスと注意点をひとつずつ指摘してまとめとします。まず、アドバイス。脱退の自由といいますが、時期を見て行使することも考えられます。具体的にいえば、株価が回復した時期に脱退するのと、株価が下がりきった時期に脱退するのとでは、積立不足の計算が違ってくるため、企業の負担が何分の一になることもあります。慌てた結果が負担ばかり重かった、とならないようにするのも検討のひとつです。
次に、注意点。厚生年金基金脱退が、単なる退職金廃止にならないような配慮も必要です。厚生年金基金の代行部分は厚生年金の一部ですから、社員の影響はありませんが(企業年金連合会や国から給付を受ける)、プラスアルファの部分がなくなることは、退職金水準のカットとほぼ同義です。安易な退職金水準のカットは不利益変更となり認められない恐れもあります。原則として、厚生年金基金からもらえた水準を会社として補てんすることを考えるべきでしょう(仮に毎月1万円でも、15年保証であれば180万円の退職金支払いに相当するので、準備としては大きい)。
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AIJ投資顧問会社の問題をきっかけに、厚生年金基金の問題がいくつも顕在化してきました。ひとつひとつ冷静な議論をしていく必要があると思います。