古民家/古民家の基礎知識

古民家暮らしができる街はどこ? その2

前回はこの記事でいう古民家の定義と古い建物が残っていそうな場所をピックアップしました。今回は実際に借りられそうな場所や借り方、注意点など、実際に借りるためのノウハウをまとめていきます。

中川 寛子

執筆者:中川 寛子

住みやすい街選び(首都圏)ガイド

古民家があっても
貸してもらえるとは限らない

はん亭

根津に残る明治時代の木造3階建ての串揚げ店、はん亭。界隈には風情のある建物が残されている

前回、戦災から免れ、古い建物が残っている地域をピックアップしました。その中で一般の人が借りるとしたら、どのエリアが現実的でしょうか。まず、ひとつ、注意しておきたいのは古民家があっても、貸してもらえるとは限らないという点です。その辺りの事情について、谷根千エリアの不動産事情に詳しいコムガーデン尚建の徳山明さんにお話を伺いました。

 
寺

谷根千という言葉が一般的になりだしたのは8年前くらいと徳山さん。以来、観光客が増えた

「谷根千で住まいを探したいと来社する人の約3分の1は憧れからこの街に住みたいとおっしゃるのですが、そのうち、最終的にこのエリアで借りる人は1割程度。それにはいくつか理由があります。ひとつは多くの人に下町=相場が安いという思い込みがあること。たとえば千駄木は下町というイメージはあるものの、実際は文京区で山手線の内側で、都心に近いのです。そのため、家賃相場が高く、予算と1~2万円以上のギャップが生じることも。古民家という要望に合わせて古い木造のアパートを見ると、設備が古く、すきま風が入りそうと理想と現実のギャップに敬遠してしまう。それを乗り越え、借りようと決心する方は案外少ないものなのです」

 

不忍通り

谷根千エリアで高い建物が建つと言えば不忍通り沿いなど限られた場所だけ

また、谷根千エリアは不忍通り沿いには分譲マンションが建っているものの、一歩入ると裏手には低層の住宅街が広がり、そのエリアでは普通に居住している人が多く、そもそも賃貸物件自体が少ないという事情があります。

 

プラスもマイナスもある、
借地権の多い街

空き家

日本全国で空き家は増えている。場所によっては防犯、防災面から危険な存在になっていることも

もうひとつ、空き家があっても貸してもらえるとは限りません。所有者が分かっていればその人に交渉を持ちかけられますが、分からなければ探さなくてはなりません。また、古い建物が残っている街には共通した事情があります。それが借地権という問題です。土地の所有者と建物の所有者が異なっているのです。

 

そのため、たとえば建物の所有者が亡くなり、相続人がいない、分からないなどで家が空いていたとすると、土地の所有者を探すことから始める必要があり、面倒な作業になります。また、大家さんが土地、建物ともに所有していたとしても、新たに貸すのが面倒と断られることもあります。特に寺社が所有している場合、熱心に収益を上げる必要がないためか、空き家のままで放置されている例もあります。ちなみに更地にしないで空き家を残しているのは、空き家があると税制面で優遇されるため。取り壊さないほうがトクなのです。

 

祐天寺

実は私が住んでいる祐天寺も寺を始めたとした古い地主のいる、借地権の多い場所。そのため、古い建物が残されている

逆に歴史のある、寺社が多い街では古い建物が残りやすいという言い方もできます。鎌倉古民家バンクの島津健さんは「鎌倉は寺社や古くからの地主が所有する借地が多く、それが古い建物が多く残されている理由のひとつと考えられます。建物が古くなっても、大家さんに建替えを承諾してもらうには建替承諾料がかかる、面倒だとなると建替えは行われませんし、再建築できない場所にあることも。売ろうにも借地権だと安くなります。それに鎌倉では階段があったり、道路付けに問題がある土地が多く、なかなか売れない。一方で借地料はそれほど高くありませんから、売るよりは安くでも貸したほうが良いとなる。それで古い建物が残され、比較的安く貸されることになるわけです。購入の場合も借地権なら2000万円台~とかなり安く見つかることがあるので、鎌倉に家を建てるなら狙い目でしょう」。

 

縁側のある家

一戸建て、平屋、縁側……、テレビドラマに出てくるような家を探すのは至難の技だ(写真提供/鎌倉古民家バンク)

とはいえ、鎌倉で古民家を借りたいという人の多くは10万前後の予算で海の見える高台の平屋、3DKで猫が買える家を希望するそうで、さすがにこの条件で希望の住まいを探すのは至難。谷根千同様、そもそも鎌倉では家賃、土地価格の相場が高いということを意識しておかなくてはいけません。

 
古い日本家屋

港区内に残された古い木造住宅。路地沿いには井戸があり、港区とは思えない風景が広がる

これは前回取り上げた戦災を免れた地域全般に言えることです。戦災を受けたのは、昭和20年代にはすでに開発されていた場所です。ですから、そこで区画が残り、古い建物が残っていたとしても、立地、生活の利便性は高いはず。同じ場所の新しい家に比べれば安いでしょうが、絶対的な価格として極端に安いことはないと思ったほうが良いでしょう。まして、近年建替えられる物件は建替えが進んでおり、雰囲気のある建物の絶対数は減少傾向にあります。

 

冒頭から厳しい話になりましたが、では、どこでだったら借りられる、買える可能性があるのか、次のページで見ていきましょう。
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