寝台特急サンライズ瀬戸・出雲の旅
相次ぐブルートレインの廃止で、唯一の定期寝台列車として孤軍奮闘中なのが、東京駅発着の「サンライズ瀬戸」と「サンライズ出雲」だ。伝統的な青を基調とした夜のイメージだったブルートレインに対し、「サンライズ」はベージュと赤を基調とした夜明けの明るいイメージ。機関車牽引だったブルートレインに対し、機動性を誇る電車編成で颯爽と夜の東海道を駆け抜ける。
登場は1998年と比較的新しく、老朽化が目立ったブルートレインに対し、車内は快適そのものだ。現代のニーズに合うように個室主体なのもビジネスパーソンや女性観光客を中心に喜ばれている。今回は、「サンライズ瀬戸」を中心に「サンライズ・エクスプレス」の旅をレポートしよう。
<目次>
- 東京駅午後10時発の「サンライズ・エクスプレス」
- 寝台個室はどんな感じ?
シングル、ソロ、シングル・デラックス、サンライズツイン、シングルツイン、ノビノビ座席 - シャワー室とミニサロン
- 「サンライズ瀬戸」の車窓から
- 乗り換えて続く四国鉄道の旅
- 琴平への延長運転
- 「サンライズ出雲」の旅
- 広島、九州、鳥取への乗りつぎ案内
- 上り東京行き「サンライズ」
- サンライズ・エクスプレスの運賃&料金
- 寝台車は割高?新幹線+ホテルとの料金比較
東京駅午後10時発の「サンライズ・エクスプレス」
「サンライズ・エクスプレス」は毎晩午後10時ジャストに東京駅9番線を出発する。
14両編成のうち、前7両が四国の高松行き「サンライズ瀬戸」、後ろ7両が山陰の出雲市行き「サンライズ出雲」となり、翌朝、岡山で切り離されて、それぞれの目的地を目指す。7両編成の内訳は「瀬戸」「出雲」ともに全く同じだ。
サンライズの一人個室「シングル」「ソロ」
一人部屋「シングル」(昼間の列車の普通車に相当するB寝台)が圧倒的に多く、類似したものとして、やや手狭な一人部屋「ソロ」もある。寝台料金は、シングル7560円、ソロ6480円(乗車するときは、別に利用区間の運賃と特急券が必要だ)。
シングルは、コンパクトにまとまった個室で、ベッドの脇に荷物置き場もある。テーブルは駅弁を置くスペースがあり、使い捨てコップが一つ置いてあって、歯磨きには、洗面所にこれを持参していこう。揺れてもコップが倒れないように輪っかが取り付けてあるので、ここには缶ビールやペットボトルを置くこともできる。ドア寄りにコンセントがあり、シェーバーやスマホ、タブレット、パソコンの充電も可能だ。ハンガーは一つだけ壁に掛けておける。シャツや上着を重ねて吊るしておこう。狭いながらも工夫次第で快適に一晩を過ごせる。
ソロは、床下にモーターのついた電動車(形式モハネ)に設置されていて、また、シャワー室、ミニサロンが同じ車両内にあるので、必ずしも静謐性が確保されているわけではない。安いだけの理由があるわけで、それを考慮の上、選択したい。
高価な「シングル・デラックス」
昼間の列車のグリーン車に相当するA寝台個室は「シングル・デラックス」(寝台料金1万3730円)と呼ばれている。ベッド幅が広いのみならず、大きなテーブルと洗面台が室内にある。ゆったりした個室内は、「動くホテル」と呼ぶにふさわしい。トイレとシャワーはないものの、シングルデラックス専用のシャワー室が同じ車両内にあり、無料で使える。
ユニークな2人部屋
二人部屋としては、「サンライズツイン」(一人料金7560円)と「シングルツイン」(一人料金9430円 ※2人利用の場合、プラス5400円)がある。いずれもB寝台で、「サンライズツイン」は広い個室内にベッドが2つ並んだもの。「シングルツイン」は2段ベッドで、上段を使わないで一人個室としても利用できる。いずれもB寝台(昼間の列車でいう普通車扱い)である。安くあげたい人向きの「ノビノビ座席」
リーズナブルに利用したい人向けには、雑魚寝に近い「ノビノビ座席」(5号車or12号車)がある。車内はカーペット敷きで、横になって頭を置く部分にのみ隣席との仕切り板がある。小さなテーブルと紙コップ、それに毛布の支給はあるが枕はない。寝台料金不要で、運賃プラス指定席特急料金で乗車できる。安いので旅行シーズンには満席となることもしばしばとのことだ。
寝台車らしくないインテリア
個室のロックはテンキー方式。各自で4桁の暗証番号を決めて使用する。車内は室内も含め木目調の落ち着いたもので、ミサワホームが内装を担当した。そのせいもあって、従来の寝台車にはない心地よくリッチな雰囲気に満ちている。
シャワー室とミニサロン
夜遅い出発、高松着は朝早いので食堂車はない。サービス施設としてはトイレのほか、シャワー室とミニサロンがある。シングルデラックス以外の乗客がシャワーを利用するには、車両備え付けの券売機からシャワー・カード(320円)を購入する必要がある。但し、販売数に限りがあるとのことだ。
かつての「北斗星」のように時間を予約する必要はないものの、お湯の出る時間は6分(途中で自由に止めたり、出したりを繰り返すことができるのは北斗星と同じシステムだ)だから、30分程度の利用時間となるだろう。
以前は、タオルと歯磨きセット(210円)も車掌から買えた。サンライズのロゴ入り袋と車体のイラスト入りタオルなので、乗車記念にもなったのだが、残念ながら販売中止となってしまった。ミニサロンは、窓を向いたテーブル席で、飲食をしたりするほか、シャワーの順番待ちのスペースでもある。
「サンライズ瀬戸」の車窓から
夜を徹して走った「サンライズ・エクスプレス」は、静かに姫路に停車した後、朝6時の「おはようございます」の車内放送でお目覚めモードとなって、6時27分に岡山到着となる。ここで列車の切り離し作業が行われ、前7両の「サンライズ瀬戸」は31分に、後ろ7両の「サンライズ出雲」は34分に、それぞれの目的地を目指して走り出す。ホームの売店や自販機で買い物をする場合は、乗り遅れないように、また「瀬戸」と「出雲」を乗り間違えないよう十分気をつけよう。
「サンライズ瀬戸」は、山陽本線と分かれ、通称「瀬戸大橋線」(正式には岡山~茶屋町=宇野線、茶屋町~宇多津=本四備讃線<うち、茶屋町~児島はJR西日本、児島~宇多津はJR四国>、宇多津~坂出~高松=予讃線)に入る。通過駅のホームは、岡山へ向う通勤通学客であふれている。児島に停車(ここからJR四国管内となるので乗務員が交代)、いよいよ「サンライズ瀬戸」の最大の車窓ハイライトである瀬戸大橋を渡ることになる。
瀬戸大橋は道路・鉄道併用で鉄道は道路の下を走る。そのため鉄骨のトラスが少々目障りだが、瀬戸内海の眺めは素晴らしい。日の出(サンライズ)の時間と重なる時期ならば、進行方向左側の窓からは列車名のごとくサンライズが拝める。とはいえ、あっけなく10分ほどで渡りきって、「ようこそ四国へ」の看板が目に入ると、坂出到着のアナウンスが車内に流れる。
乗り換えて続く四国鉄道の旅
坂出着7時9分、高松着7時27分なので、現地で朝食後、朝一番から行動できるのが寝台列車利用のメリットだ。坂出、高松からは、松山、高知、徳島方面への列車に乗り換えてさらなる鉄道旅行も可能である。
坂出駅の乗り換えは、同じホーム上なのが便利だ。大きな荷物を持って階段を上り下りする必要はない。高知行き特急「しまんと3号」7時37分発、松山行き特急「いしづち1号」7時51分に接続している。徳島行き特急「うずしお5号」8時23分には高松で乗り換えることができる。
琴平への延長運転
瀬戸内海国立公園指定80周年を記念して、2014年9月から11月の金曜日・土曜日・休前日に東京駅を出発する下り寝台特急「サンライズ瀬戸」について、高松~琴平駅間の延長運転を実施した。好評だったので、その後も、旅行シーズンを中心に継続して運転されている。2018年については、東京駅発基準で6月30日までの金、土と4月27~29日、5月2日~5日の運転が決まっている。
1.琴平までの延長運転について
※注釈 平成30年6月30日までの金曜日・土曜日・休前日、4月27~29日、5月2日~5日
※注釈 始発駅出発日基準
2.運転ダイヤ
東京⇒高松(7:27着)、多度津(8:33着)、善通寺(8:43着)、琴平(8:52着)
なお、上り列車は、従来通り高松発である。寝台列車が相次いで廃止される中、僅かな距離とは言え、延長運転されるのは明るい話題だ。どこまで継続的に運転されるかは現時点では明らかではないが、少しでも利用して新たな試みを応援したいものである。
琴平では金毘羅詣をしてみたいが、琴平駅から2017年4月に新しくデビューした観光列車「四国まんなか千年ものがたり」に乗り継いで大歩危まで行ってみるのも楽しいと思う。
「サンライズ出雲」の旅
「サンライズ出雲」は倉敷から伯備線を経由し、新見、米子、安来、松江、宍道、出雲市に停車する。米子着9時3分、出雲市着9時58分なので、起きてから寝台車の旅を少しのんびり楽しめる。松江あたりでは車窓から宍道湖の水辺の景観を見ることができる。
広島、九州、鳥取への乗りつぎ案内
「サンライズ」は、四国や山陰への足となるばかりではない。岡山で九州新幹線直通となる「みずほ601号」6時51分発に乗り換えれば、広島7時25分、小倉8時11分、博多着8時28分、熊本着9時02分、鹿児島中央着9時46分である。
広島の場合は、羽田発の一番便より2時間近く早く到着できるメリットがある。小倉も羽田発一番便より早く駅前に到着できる。
九州の場合は、熊本中心部であれば、東京の羽田空港発一番便&リムジンバス利用よりも早く到着できるであろう。他の都市でも、場所に寄り朝一番の飛行機利用よりも早く到達できるので、「サンライズ&みずほ」は急ぎの人には利用価値が高い。
岡山では、鳥取行きの特急「スーパーいなば1号」6時47分発にも乗り継げる。この場合は、鳥取着8時38分となり、羽田空港発早朝便利用と大して変わらない到着時間である。早起きして空港へ向うことを勘案すれば、悪くない選択肢であろう。定期的な愛好者がいるのも頷ける。
上り「サンライズ」は関西~首都圏の夜行便の役割も
上り東京行き「サンライズ」は岡山発22時34分、姫路発23時35分で東京着7時08分であるから、充分ビジネス利用が可能だ。特筆すべきは、下り列車が通過となる京阪神地区にも停車することだ。
三ノ宮発0時13分、大阪発0時34分なので、今は亡き寝台急行「銀河」の代役となっている。知る人ぞ知る使い方で、固定客がいる。岡山以東ならば、「瀬戸」「出雲」どちらでも空いていれば乗れるのがいい。
このように「サンライズ・エクスプレス」は四国と山陰への足のみならず、多様な使い方のできる列車である。貴重な寝台列車というだけでなく、実用面でも活用できる利便性がある。にもかかわらず、意外と知られていないのが残念だ。次回、首都圏から西日本へ向う時は、ぜひ乗ってみることをおススメしたい。
サンライズ・エクスプレスの運賃&料金
■運賃
東京~岡山 10480円
東京~高松 11310円
東京~米子 11660円
東京~出雲市 11990円
横浜~岡山 10150円
横浜~高松 10990円
横浜~米子 11340円
横浜~出雲市 11990円
特急券:上記の区間はいずれも3240円
■寝台料金
シングルデラックス 1万3730円
シングル 7560円
ソロ 6480円
サンライズツイン 7560円(一人分の料金。一部屋を一人で使用するときは二人分の特急券と寝台料金が必要)
シングルツイン 9430円(2人利用の場合、プラス5400円必要。この部屋を二人で利用するときは、サンライズツインよりは若干安くなる)
ノビノビ座席は、寝台料金不要。運賃+特急料金のみ。
寝台車は割高だという風評があるが……
実際に比較してみると
東京~岡山
●「サンライズ・エクスプレス」シングル利用
10480(運賃)+3240(特急券)+7560(シングル)=21280円
●「サンライズ・エクスプレス」ノビノビ座席利用(座席と言っても、ベッド同様横になれる!)
10480(運賃)+3240(特急券)+0(寝台料金不要)=13720円
●新幹線のぞみ+ビジネスホテル
10480(運賃)+6860(指定席・通常期)+5000(ホテル代)=22340円
※ホテル代は仮に5000円として算出。もちろん各ホテルや部屋の種類によってばらつきがあるので、これ以上かかることも多い。
「サンライズ・エクスプレス」利用は、時間的にも料金的にも「意外に」おトクであることが分かる。
取材協力=JR四国、JR西日本