スターバックスの営業利益と平均株価推移
次に高い株価の源泉となっている利益額の推移と合わせて見てみると以下のようになります。1992年に上場した当時の同社は売上1億ドル、営業利益は7百万ドルに過ぎない企業でした。それが今期には売上133億ドル、営業利益は20億ドルが見込まれています。この間の年平均成長率(CAGR)を計算すると、売上が+27.5%、利益+32.6%の複利成長だったことになり、概ねこの間の株価上昇率と整合します。名もないシアトルのコーヒー屋が、類稀なる経営センスによって世界中に拡がることで成長した利益の分だけ、株価もほぼ等しく騰がってきたともいえます。
浸透した『スターバックス ウェイ』
コーヒーチェーン店くらいはどこにでも山ほどある訳ですが、その中で同社が世界中を制するがごとく成長してきたのには、強烈なブランド作り、いわば信者作りの手腕によるものと思います。スターバックスのCEOハワードシュルツ氏(ユダヤ系アメリカ人)は、イタリアのバールに見られるコーヒー文化に感銘を受け、最高品質のコーヒーをアメリカに広め、その価値を顧客に伝えることに情熱を注ぎ、数億円を出して自分が勤めていたスターバックスを買収しました。勤務時代に会社は自分の提言を聞いてくれなかったからです。その熱い信条を宗教のように市民レベルにまで布教するための様々な仕組みや企業文化作りが、同店を世界57カ国、17,200店にまで拡大させたと言えるでしょう。大抵のスターバックスの店員は非常に愛想がよく、はつらつとした印象を顧客に与えているのも、シュルツ氏の考え、目標、ゴール、企業価値といったものが浸透しているために起きる自主的な反応の一つです。
そう振舞うよう言われているのではなく、そうなるようなルーツが心に植え込まれます。その為に同社は従業員を「パートナー」と呼んで、会社の中で「最も大事な資産」と明記しています。大事にされていると実感している従業員に、イタリアの優雅なコーヒー文化をアメリカ流に伝えていくという使命を徹底的に浸透させ、その為に何をすれば良いかを各店長が考えると、必然的に質の良いコーヒーとサービス、座り心地の良いソファーの提供、顧客の声をイノベーティブな商品へ反映させる仕組み、などが具体的動作として表れていきます。
勿論シュルツ氏一人でそのような文化を植え付けられないので、宣教師の役目を果たすマネージャーが世界中に多数おり、明文化された強い企業使命を持ち、その価値感を維持強化させるための儀式や教育訓練が日常業務の中に取り入れられています。
このようにして教祖であるシュルツ氏の思いはマネージャー(宣教師)によって末端の店員に浸透し、「スターバックス流」が顧客にまで広がって、各地で出店するごとに成功するという流れです。味が他のコーヒー店よりおいしい訳ではありません。他のコーヒー店は文化が弱いので、このように次々に出店して布教することはできないのです。