着物は人々の生活や慣習と共に発達してきた衣服で、地方の風土に深く関わっています。そのため、「好み」も地方ごとに個性があります。情報量が増え世界中がとても近くなった今、以前に比べて「好み」が平均化されてきていると言われていますが、着物についてはその特色を今も残しているところが少なくありません。今回は、そんな地域ごとの慣習による着物の「好み」や、コーディネートの「好み」について考えていきます。まずは全国を大きく関東と関西に分けて、どのような違いがあるのか代表的な例を挙げましょう。
帯の巻き方
上が関東巻き、下が関西巻きの帯。どちらでも可能なように、表裏両方に柄があるものも多い
帯を結ぶ際、柄や色の出具合によって巻き方を変えた経験はありませんか? 体を軸にして時計回りに巻くのを「関東巻き」、反時計回りに巻くのを「関西巻き」と呼ぶことが多いのですが、その理由には様々な説があります。まず関西は公家文化が中心だったため、お付きの人に巻いてもらうということが多く、巻く人が右ききで巻きやすいようにそうなったという説。関東では武士文化だったため、刀を差す時に引っかからないようにするためにこの巻き方をしていたのが庶民に広がったという説などが、主な理由とされています。
襦袢の仕立て
左は関西衿、右は関東衿 ※クリックで拡大します
襦袢にも「関西衿」と「関東衿」があります。大きな特徴として「関西衿」は、普段私達がよく目にする襦袢のように、衽(おくみ)の部分があって別衿がついています(「
着物の名称」参照)。一方「関東衿」は、「通し衿」と言われる衿が裾まで通じていて、主に男性用の長襦袢に用いられる形です。どちらが良いということはありませんが、「関西衿」は衿が合わせやすい、「関東衿」は衽の部分がないだけ着た時に身幅が必要以上に余らずスッキリと着られるという特徴があります。好みによって、自分の着やすい方を選んでみるのも良いかもしれません。
喪服
現在は縮緬の生地が主流ですが、以前は関東では羽二重、関西では縮緬を好んで使用していました。また、喪服と言えば黒い生地に五つ紋付ですが(「
喪服の着方」参照)、ひとくちに「黒」といってもその染色方法によって微妙に「色の深み」や「やわらかさ」などに特徴があるものです。例えば関西は紅を染めてから黒を染める「紅下染め」、関東は藍を染めてから黒を染める「藍下染め」が主流で、どちらかといえば関西はやわらかさ、そして関東はスッキリとした色合いが好まれていました。現在では草木染め、泥染めなど多くの染色法が用いられるようになっており、この限りではなくなってきているようです。