伝説を辿るように登場したロードスター
今年のフランクフルトショーでお披露目されたSLS AMGのオープンモデル。サイズは全長4638mm×全幅1939mm×全高1261mm、価格は2590万円。フロントミッドシップエンジンとトランスアクスルレイアウトなどを採用、前後重量配分を47:53とした
300SLの伝説。実に半世紀以上も前のクルマにも関わらず、今乗っても十分に早くて、十分に現役……。そんな“スーパースター”を今に蘇らせたSLS AMGクーペ(ガルウィング)だったが、伝説の後を辿るかのように、そして当初の予定どおり、ロードスターモデルを発表した。
半世紀以上も前、その構造上の必然性からガルウィング方式のドアを採用した300SLクーペは、今でこそガルウィングモデルの代名詞として、ビンテージカーマニアから絶大なる支持を受けているが、“300SL”としての成功は、アメリカ市場を念頭においたロードスターモデルに拠るところが大きかった。
AMG初の専用スポーツカーとしてデビュー後、世界中で賞賛されている“帰って来たガルウィング”、SLS AMGもまた、このロードスターモデルの追加で、一層の人気と憧憬を得ることは間違いない。
300SLと同様に、基本的にはクーペスタイルからルーフとガルウィングドアを取り去り、小さなソフトトップをそなえた。2m近くにもなろうかというロングノーズが、クーペよりいっそう強調され、意外に逞しいショルダーラインもはっきりと目立つようになって、さらには後方へとすっきり流れさるリアセクションとあいまって、ロードスターの方が素直に“格好いい”、と思う人も多いはずだ。立ち気味で小さく、とてもクラシカルな印象のフロントスクリーンと全体のシルエットとのバランスも、ロードスターの方が優っている。
ソフトトップは、とにかくエレガントにみえる。ハードルーフ全盛の今、かえって贅沢にみえてしまうから不思議。3層からなるファブリックトップには、マグネシウムとアルミニウム、スチールを骨組みとして組み合わせ、軽量化を図った。Z型に折り畳まれ、開閉に要する時間はおよそ11秒。もちろん全自動で、時速50km/h以下であれば、走行中の開閉も可能である。ちなみに、黒、赤、ベージュ3色のトップを用意した。
インテリアデザインはクーペと変わらない。センターアームレストの前部に、ルーフ開閉のための操作ユニットが配されている。インテリアコーディネートには随分こだわった。デジーノカラーのみならず、あでやかなスタイルインテリアパッケージも用意(来春以降に発売)する。
ルーフとドアを取り去ることによって、ボディシェルの剛性低下は免れない。もちろん、開発当初からロードスター化を念頭にデザインされているが、それでも切ったままだと落ちてしまう。剛性低下と、それを補うための重量増加をどれだけ最低限に抑えることができるかが、この手のハイパフォーマンス・ロードスターにおける、性能面でのキモ。
目立った対策は3カ所。ひとつめは、間仕切りを多くし、肉厚を増やしたサイドスカートの採用。次に、ウィンドスクリーンとセンタートンネルに対してダッシュボードのクロスメンバーを支えるストラットの追加。そして最後に、リアアクスルの補強として、ソフトトップとタンクの間に湾曲ストラットを追加、となる。
これらの最適設計により、アルミニウムスペースフレームそのものの重量増加は、ルーフ部分と相殺してわずか2kgであり、車両重量増も40kgに抑えられた。
その他、メカニズム的に注目しておきたいのは、オプションながら電子制御ダンピングシステム(AMGライドコントロール)を新たに設定したこと。これはボタンを操作することで、サスペンションモードを“コンフォート”“スポーツ”“スポーツプラス”の3段階に切り換えることができるもの。スポーツが、これまでクーペに使われていた標準仕様ダンパーと同等のセッティング、スポーツプラスがパフォーマンスパッケージのダンピングとほぼ同じで、これに“コンフォート”という柔らかいセットを加えた3つの味つけを、1台で楽しめるようになった。もちろん、今後はクーペにもオプション設定される。
AMGによる初の専用開設計、アインアインモーターの象徴、歴史に残る珠玉の自然吸気6.2リッターM159V8ドライサンプエンジンや、トランスアクスル式7速デュアルクラッチシステムのAMGスピードシフトDCTといった、主要メカニズムの表面的なスペックはクーペと同じである。