ギャラリー展示会の写真

ギャラリー「森岡書店」にて展示会時の写真


ガラスケースの中で、星屑のように繊細で控えめな光を放つ銀細工。手の中にすっぽり収まってしまうような、小さくて華奢なものなのに、凛とした佇まいに揺るぎない存在感があります。ぽつりぽつりと静かに並ぶ、小さな銀のスプーンや小物にひたすらうっとり見入っていると、ギャラリーの店主から声が掛りました。作家を紹介してあげるから、ぜひ会いに行ってくださいと。

さっそく訪ねた金工師・鎌田奈穂さんのアトリエは、緑の多いお寺のすぐ隣りにありました。時間になると鐘の音がゴーンと穏やかに鳴り響く、風情ある小さな部屋で、アトリエといっても自宅の一角にあるこじんまりとしたスペース。家の中には、どこか遠い国からやってきた、素朴な古いオブジェたちが、おとなしそうにぽつぽつと並んでいました。

部屋の一角にならぶ古道具。師匠から譲られたものも多い

部屋の一角にならぶ古道具。師匠から譲られたものも多い

学生時代は油絵を学んでいたという鎌田さん。浪人生だった頃に、家の近所にあった古道具屋さんに魅せられ、ちょくちょく通うようになったそうです。そこで出会ったのが、後にお師匠さんとなる、長谷川竹次郎氏の展覧会の葉書きでした。それまで油絵には何か漠然とした違和感を感じて、どこか悶々とした日々を過していたそうですが、そんなとき、長谷川氏の作品は、鎌田さんの心にずどんと深く響きました。直感的に「これだ!」と強く感じて、いてもたってもいられず、さっそく名古屋にある長谷川氏の仕事場へ直行!その後、お金と時間を作っては、何度も会いに行くようになったそうです。そしてある日「金工やってみる?」と長谷川氏の奥様、まみさんからの言葉。そのひと言で、すぐさま心は決まりました。

鎌田さんの作品、繊細なラインのたくさんのスプーンがアトリエに

鎌田さんの作品、繊細なラインのたくさんのスプーンがアトリエに


弟子としての毎日は、朝7時半には仕事場へ行って、まずは庭の掃除と雑巾掛け。8時ぴったりにお茶を点てて、お昼ごはんは12時ちょうど。5時にはきっちり終わって家に帰るという、淡々とした規則正しい生活。「まるで昔話みたいだった。」と鎌田さんはいいます。
「右も左も分からずにいきなり弟子入りしてしまったので、毎日ひたすら夢中で過して、あっという間に月日が経っていた、という感じです。初日から金づちを持って、ポコポコ叩いていました。最初は手の皮も剥けたし、豆もできたけど、でも楽しかった。行く前にはモヤモヤとしていたものが、ここに来て本当にやりたいことが見つかって、すっきりした気分でした。」
そして2年間の修行期間を経て2008年より独立、個人での制作を始めています。

こじんまりと小さなアトリエスペース

こじんまりと小さなアトリエスペース


すっきりとコンパクトな鎌田さんのアトリエスペース。こんな小さなスペースでどうやって作るの?と不思議な気分になりますが、「火と、叩く場所があれば大丈夫ですよ。」とにっこり。鎌田さんの作るものは、主に銀や真鍮が材料で、薄い板状になった銀を、型に合わせて専用のハサミで切り、木槌でトントン叩きながら伸ばしたり、へこみやまるみを付けてかたちを作っていきます。銀は木槌で叩くほうが、白くうっすらとくぐもった雰囲気になり、その微妙な質感が好きなんだそうです。酸化しやすい素材なので、時が経つと変わっていく表情の面白さも銀ならではの魅力です。

左は穴を開けるための道具やハサミ。右はスプーンの型紙

左は穴を開けるための道具やハサミ。右はスプーンの型紙


「いろんな人と出会えるのも、この仕事をやってて良かったと思うことのひとつ。展示会では、ちょっと怖そうな人が真剣な目付きで作品を選んでくれたり。様々な年代の人が手に取ったり話しかけてくれるので嬉しいです」。
スプーンやピッチャー、アクセサリーなど、今は小さなものを作ることが多いけれど、いずれは大きなものにも挑戦してみたいそうです。また、七宝を施した食器などにも興味がある、とのこと。
「金工は、ずっとやり続けていきたいと思える仕事です。なんでこんなに好きなのか、自分でも分からないくらい。すごく自分にしっくりくるんです」。

制作したアクセサリーの一部

制作したアクセサリーの一部

東洋と西洋が混ざり合ったような、不思議な趣を持つ鎌田さんの作品。トルコや中近東など、ヨーロッパとアジアの境目の混沌と入り混じった雰囲気に心惹かれるそう。年に一度くらいは旅に出て、各地の美術館や博物館などを巡り、作品や古いものからたくさんのインスピレーションをもらうそうです。

鎌田さん私物のカードケースも手作りで、独特の雰囲気がありました

鎌田さん私物のカードケースも手作りで、独特の雰囲気がありました

まだちょっと先になりますが、今年は森岡書店やGallery SU等で展示の予定。今後はどんな作品が生まれてくるのか、いまから楽しみな作家です。


協力:森岡書店(作品の取り扱いあり)