高次脳機能障害の原因
高次脳機能障害と診断するにはMRIや、CTだけではなく、必ず臨床心理士などによる神経心理学検査が必要です
■ 脳血管障害
脳の血管が破れてしまう脳出血およびクモ膜下出血と脳の血管が詰まってしまう脳梗塞に大別されます。多くは、手足が動かしにくくなる身体障害とともに高次機能障害が出現しますが、記憶力が低下する、イライラしやすくなる、集中力が低下するといった他人から分かりにくい障害だけが残ることがあります。
■ 頭部外傷
頭部外傷の中では交通事故が最も多い受傷原因ですが、他に高所からの落下や、暴行などによって脳が傷つくことがあります。多くはMRIやCTを撮影すると障害部が特定できますが、まれにMRIやCTだけでは障害部位が特定できないこともあるので、気になる症状が残った場合は脳神経外科、神経内科、精神科などの専門医を受診しましょう。
高次脳機能障害の発症年齢・傾向
発症年齢は、比較的若年者に多く、平均すると29.8歳。10~20代の若者、そして男性が多いです。交通事故や高所作業中における転落が引き金となる頭部外傷が占める割合が多いからだと言えます。高次脳機能障害の検査
高次脳機能障害と診断するためには様々な検査が必要になります。一般的なCTやMRI検査だけではなく、臨床心理士や言語聴覚士や作業療法士による神経心理学検査が必要になります。代表的な検査として改定長谷川式知能評価スケール(HDS-R)やMMSEや三宅式記銘力検査などがあります。これらの神経心理学検査は、大がかりな医療機械による検査ではなく、担当者が簡単な質問をして答えてもらい、その回答を点数化して高次脳機能を評価します。高次脳機能障害は、病院や入院生活だけでは判断できない非常に分かりにくい症状だけの場合がありますから、実際に生活している場面や職場での出来事など、ご家族の方がメモやビデオを活用して記録しておくと診断の助けとなります。
高次脳機能障害の治療・回復過程
高次脳機能障害は、手術治療や内服治療、点滴治療といった確立した治療方法がありません。社会復帰を目指してリハビリテーションを行うことが中心になります。高次機能障害は、一見しただけではわかりにくい事が多く、周囲の理解が得られにくい障害の一つですが、記憶障害や集中力が保てない、判断力が低下したり、系統だった思考ができずに仕事に支障がでる、やる気が出ないといった症状は、社会生活を営む上で大きな障害となります。
一度低下してしまった高次脳機能機能は徐々に改善します。多くの場合、受傷・発症後1年程度の時期までは著しい改善が認められます。その後は改善のスピードが鈍り、受傷・発症後2年程度経過するとほぼ症状が固定してしまうと言われています。しかし、高次脳機能の回復が困難になっても適切なリハビリテーションを行いその他の手段で生活を営む方法を獲得することができれば、より早く社会への復帰ができます。
高次脳機能障害の社会保障
高次脳機能障害は、パッと見た目では分かりにくい障害なので、障害者として認定されにくく、医療や福祉のサービス対象にならないことが多くありました。しかし、2001年より厚生労働省が「高次脳機能障害支援モデル事業」を実施し、広く社会に認知されるようになりました。2006年には診断基準も作成され、この診断基準で「高次脳機能障害」だと認定されている人は約27万人いらっしゃいます。
高次脳機能障害は、行政上、精神疾患とされているので、下記の制度が利用出来る場合があります。主治医や、病院の社会福祉士(相談員)、ケアマネージャーと相談してみましょう。
■ 精神障害者保健福祉手帳
自立した生活が送れるための手帳です。高次脳機能障害の原因となった病気やけがで初めて病院を受診した日から6ヶ月後に申請することができます。
■ 障害福祉サービス
障害者自立支援法における福祉サービスを受けられる場合があります。
■ 自立支援医療
精神疾患で通院している患者さんが対象の医療費助成制度です。高次脳機能障害が対象になることがあるので、主治医や社会福祉士と相談してみましょう。
■ 重度心身障害者医療費助成制度
重度障害者の経済的な負担を軽減するための助成制度です。
■ 障害年金
年金に加入しているひとがけがや病気をしたときに、障害年金が支給されることがあります。受傷日から1年6ヶ月後に申請することができます。