脳・神経の病気/てんかん

てんかんの特徴・症状・治療

【脳神経外科医が解説】意識を失ってしまったり、体を大きくガクンガクンさせるような痙攣が起きたり、急に動きが止まったりといった症状を繰り返し起こす「てんかん」。一般的な病気で、患者さんは100人に1人と言われています。てんかんの特徴・症状・治療法について解説します。

菅原 道仁

執筆者:菅原 道仁

医師 / 家庭の医学ガイド

てんかんとは……てんかんの症状・特徴

てんかん

てんかんの発症率は100人に1人と言われています。突然意識を失ったり、痙攣を起こしたりするのが特徴です

私たちの脳の中では、神経細胞が電気信号でお互いに連絡しあい、常に調和の取れた活動をしています。しかし、何らかの拍子で、その電気信号の調和が乱れてしまうと、意識を失ってしまったり、体を大きくガクンガクンさせるような痙攣が起きたり、急に動きが止まったりといった症状が出現します。このような発作を繰り返し起こすことを「てんかん」といいます。

子供から大人まで、幅広い年齢層で発症することがありますが、てんかんの80%は18歳以前に発症します。ただ、近年では高齢化に伴い、脳梗塞や脳出血、脳腫瘍などに伴うてんかんの発症も多くなってきました。てんかんは遺伝しませんが、てんかんのタイプによっては遺伝するものもあるので、心配な場合は主治医に相談してみましょう。

てんかんの診断法

てんかんの診断の第一歩は、症状が起きているときの目撃情報です。病院に運ばれてくるときは、ほとんどの場合、発作がすでに止まっているので、私たち医師はどんな発作だったかを目撃することができません。ですからてんかんを目撃した人の情報がとても重要になります。私たち医師が教えてほしいポイントを下記に列挙します。
  • 発作が起きた状況、時間
  • 発作の持続時間
  • 意識は保たれていたかどうか
  • 歩きまわったり、舌をなめるような、普段はしない異常な行動があったかどうか
  • 震えは左右どちらから始まったか?
  • 突っ張った姿勢なのか、両手足ががくがくしていたのか?
以上の目撃情報をもとに、病院では下記の検査を行います。

てんかんの検査法

■ 脳波検査
*

脳波を測定する検査機器。頭に電極を付け、脳内の電気信号の乱れを検出します

てんかんの診断において、一番重要な検査。頭に電極をはって、脳の電気信号を抽出します。痛くもかゆくもなく、繰り返し行うことができる検査です。場合によって、わざと目の前にチカチカする光を当てたり、息をハアハアしてもらったりして、波の乱れを誘発して変化を見ることがあります。

■ 画像検査
画像検査のMRI、CT検査をおこない、脳の中に脳腫瘍、脳出血、脳梗塞、脳挫傷などがないか調べます。それだけではなく、脳細胞の働きを見るために、脳の電気活動により生じる磁場を測定する脳磁図や安全量の放射性物質を使って、脳細胞の活動具合を画像化するPET/SPECT検査を行うことがありますが、こちらは大変に大がかりな検査。一般的な病院では行わないことが多く、上記の脳波検査で代用します。

■ 血液検査
血液中のナトリウムやカルシウムが減少すると、けいれんが起きやすいので、血液検査を行います。また、てんかんの薬を飲んでいる場合、薬の副作用のチェックや薬の血中濃度を測定して内服量が適切かどうかを調べます。

てんかんの治療法……内服治療が中心

あるとき突然意識をなくしたり、痙攣を起こしたりするてんかんですが、100人に1人くらいが発症する珍しくはない病気です。てんかんは、内服薬を適切に飲み、生活習慣を良好に保てば、ほとんどの人が発作が起きることはありません。

てんかんの治療は内服治療が中心で、基本的には一種類の内服薬で治療します。なかには、一種類の内服薬ではうまくコントロールできない場合もあるので、たくさんの種類を飲まなければならない場合もあります。

ほとんどの患者さんは、この薬物治療でコントロールできますが、複数の内服薬を使用してもコントロールができない場合もあり、その場合は手術による治療を行います。手術治療では脳の一部を切除し、電気信号の興奮を抑えます。これによって調和のとれた脳の活動に戻れば、発作をコントロールすることができます。

人間の体は千差万別。内服した量と、脳へ届く薬の量は全ての人が同じではありません。ですから、血液中の薬物濃度を測定し、その人にあった内服量を決定します。この検査は、病状によってさまざまですが、おおむね半年から一年に一度くらい行うことが多いようです。内服治療が始まった初期段階では、眠気が出たり、フラつきが出たりすることがありますが、量を調節すれば収まることが大半。発作が3年から5年程度なければ、内服薬を減らしたり、中止したりできる場合がありますので主治医と相談してみましょう。

日常生活の注意点

てんかんと診断されても、薬をきちんと服用し、日常生活の注意に気をつければ普通に生活を送ることができます。下記を参考にしてみてください。

■ 睡眠不足やストレスや疲労に注意
睡眠不足やストレスや疲労があると、発作が起こりやすくなります。てんかんが多い18歳以前でこれらの悪条件が重なるのは、試験前でしょう。試験勉強は余裕を持って計画的に。また、テレビゲームのやり過ぎにも注意が必要。テレビゲームの強い光で発作が誘発されたり、熱中しすぎて寝不足になるからです。大人の場合はパチンコの光刺激などにも注意が必要です。

監視や救助体制が整っていれば運動制限はなし。運動で特に注意したいのは、水泳です。水の中では救助活動が困難になることが多いので、流れが速かったり、深かったりする海や川は避けましょう。また、スポーツは熱中しやすく、知らず知らずに疲労が蓄積しやすいので、周りの人達の配慮が必要です。

■ 内服をしっかりしていれば、旅行も可能
旅行に行って布団や枕が変わったり、睡眠リズムが崩れたりすると、寝付けない場合もあります。睡眠薬などうまく利用しましょう。スケジュールはゆったりとしたものに。また、一人旅はおすすめしません。海外旅行に行く際は、かかりつけ医に英文の診断書を書いてもらっておくと、もしものときに有用です。薬は余分に持って行く方が安心です。

■ 入浴はひとりで行わない
日本では、風呂場での事故が諸外国に比べ非常に多いという事実があります。慣習として、シャワーではなく、湯船に肩までつかってしまうことが多いためでしょう。また、水泳と違い、ひとりでいる時間が長いので、もしもの発作のときにも救助が遅れやすい環境といえます。できれば誰かと一緒に入り、シャワーで済ますのが一番安全ですが、どうしてもお湯に浸かりたいときは半身浴なみにお湯を少なめにしましょう。ひとりで入っているときは、家族が必ず声をかけるようにし、返事があるかどうかを確認すること。そして、風呂場に鍵をかけたりすることはやめてください。風呂場は滑りやすく転びやすいので、頭を打ちつけても大丈夫なようなマットを敷き詰めるのもいいでしょう。

■ 妊娠は計画的にしましょう
てんかんの診断を受けていても妊娠、出産は可能です。しかし、てんかんの内服薬の中には胎児に影響を与えやすい薬があるので注意が必要です。薬は、主治医と相談しながら胎児への影響の少ない薬剤へ徐々に変更していくのが一般的なので、妊娠は計画的におこなってください。また、妊娠中、出産時の痙攣発作は、母体だけではなく、胎児への悪影響を及ぼすので、飲み忘れや疲労には十分注意してください。

■ 職業制限はほとんどなし
てんかんの患者さんはほとんどの職業につくことができます。以前は調理師、理容師などの免許職に法的な制限がありましたが、現在は改正されています。一方で、制限はありませんが、発作が起きると安全が保証できない仕事、たとえばとび職や運転手などは適切ではないとも考えられています。夜勤があるような仕事は、不規則な生活になりやすいので避けたほうが無難かもしれません。ただし、できないことではないので主治医に相談しましょう。今後も法改正があることも考えられますので、最新のものを確認するようにしてください。

■ 車の運転は一定の条件を満たせば可能
過去には、道路交通法で運転を禁止されていましたが、2002年6月の改定で下記のような条件を満たせば申請が可能になりました。主治医とよく相談して、警察署や運転免許センターに問い合わせをしてください。

  • 過去5年以上発作がない患者
  • 過去2年以上発作がなく、今後も数年間は発作を起こす恐れがないと医師から判断された患者(数年後に臨時適性検査が必要)
  • 1年間の経過観察で、意識障害や運動障害を伴わない発作しか起こしていないと医師から判断された患者
  • 2年間の経過観察で、睡眠中の発作しか起こしていないと医師から判断された患者

てんかんと診断されたら、いろいろな福祉サービスを受けることができるので、主治医あるいは社会福祉士に相談してください。
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