胃バイパス術はRoux-en-Y(ルー・アン・イグレック法、日本ではルーワイ法)と呼ばれる手術です。
A.D.A.M.
食べた物が、胃の大部分や十二指腸、空腸を通らないようにバイパス手術を受けた場合、糖尿病者かどうかで術後に違いが出ることがわかりました。
高度肥満の2型糖尿病者は、術後すぐ、体重が落ち始めるよりもずっと前から血糖値が下がり始めるのに対し、糖尿病ではない肥満者は、逆に低血糖などの不安定な血糖になる例がたくさん出てきたのです。いったい体の中で何が起きているのでしょうか?
まず、減量(肥満)手術とは何か? それが2型糖尿病とどう関わるのかを2回に分けて解説しましょう。
減量のための肥満症手術
2010年11月18日、日本肥満症治療学会は高度肥満症の治療として「手術」を行うためのガイドラインを発表しました。それによると、美容などの減量が主目的の場合は「BMIが35以上」とされましたが、2型糖尿病や他の疾患治療の場合は「BMI 32以上」が対象になりました。BMI(ボディ・マス・インデックス)とは、体重(kg)を身長(m)で2回割って算出する体格指数。たとえば、身長1.7mの2型糖尿病者の場合、基準となるBMI 32は、「χ÷(1.7×1.7)=32」ですからχ=92.48。つまり身長1.7mの2型糖尿病者の場合は体重92.5kg以上なら減量(肥満)手術の対象となると計算できます。もちろん、専門医が食事治療・運動療法・薬物療法の指導と実施をした上での選択ですが。
今までは減量手術(肥満手術)と書いてきましたが、Bariatrics(肥満学)というのが医学の一分野として、肥満とその原因、予防と治療を含むものですから、以下は肥満症手術(Bariatric Surgery)として表記します。
日本では、肥満症手術はまだ年間100例ぐらいしか実施されていませんが、欧米ではなんと2008年度には34万4000件も行われています。そのうち22万件は肥満大国のアメリカ・カナダでの実施です。美容目的だけでなく、肥満による2型糖尿病、高血圧、高コレステロール血症(脂質異常症)、肝機能障害、睡眠時無呼吸シンドロームなどの治療として実施されています。
日本でもBMI 35以上の人は男女合わせて約30万人はいると推定され、2型糖尿病者のBMI 32以上と加算すればかなりの人数になると思います。
2009年の初めにローマで「糖尿病手術(療法)サミット:Diabetes Surgery Summit」が開催され、米国糖尿病協会(ADA)や英国糖尿病協会(Diabetes U.K.)なども参加しました。これから話題性が高まりそうなので少し勉強しておきましょう。
肥満症外科手術のいろいろ
日本肥満症治療学会は次の3つの手術法を原則としました。- 手術で小さくした胃と小腸を直接つなげる「胃バイパス術」
- 胃の上部をバンドで縛る「胃バンディング術」
- 胃を切除して細いバナナのような管状にする「スリーブ状胃切除術」
1の「胃バイパス術」は胃袋を鶏卵の大きさに切除し、そこに小腸を吻合。残りの胃の大部分と十二指腸、空腸をつなげたまま小腸の先の方にY字状に吻合し、食物は小さな胃から直接小腸にバイパスするようにする方法。残りの胃や十二指腸、空腸には食物は通らないため、食べる量や栄養素の吸収量が低下します。アメリカで一番多く実施されている、効果的な安全性の高い術です。
2の「胃バンディング術」は胃の上部をやはり鶏卵大にシリコンのバンド(リング)を巻きつけ、小さな胃に分割する方法。バンドの中には生理食塩水が入っていて、腹部の皮膚のすぐ下に埋めてある管の先端(port)を通して締めつける圧力を調整できます。このバンドは、いざとなれば取り外すことができます。
3の「スリーブ状胃切除術」は胃袋を60ml~100mlの容量になる程度に細長くしたもの。胃だけの手術で、食物の流れのバイパスはありません。切った胃は取り出します。
腹腔(くう)鏡を使ったスリーブ状胃切除術は今年から先進医療として認められましたが、手術費約30万円は保険適用外のため自己負担。他の手術は入院費を含めて自己負担額は150万~220万円ほどだそうです。アメリカでは2万~2万5000米ドル程度で、加入している保険の適用対象になります。
次回は肥満症手術で、なぜ2型糖尿病がよくなるかを考えます。
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