冬に欠かせない電気設備といえば、なんといっても暖房器具。けれども、エアコンを始め、電気ストーブやパネルヒーター、蓄熱式暖房器、床暖房など、色々なものがあり、何を選んだら良いか悩んでしまいがちです。
前回の照明器具でもそうでしたが、暖房にもやはり「適材適所」があります。新築住宅の場合は特に、あらかじめ、「空間に適した暖房計画」を立てたいものですね。
今回は、現在私たちがリアルタイムで設計している、ある住宅をケーススタディとして、「どうやって暖房器具を選んでいくか」を皆さんにも体験していただこうと思います!
オール電化の小さくて広い家!?
「家のボリュームは小さい」けれど「中は広く感じる」家に最適な暖房とは?
今回ご紹介するオール電化住宅『SH邸』は、つい先日着工したばかり。つまり、まだ完成していません。敷地は長野県で、東京と比べれば、冬はかなり寒いエリアにあります。施主は30台半ばの夫婦と女の子。まだ若いこともあって、比較的コストを抑えた設計にする必要がありました。
設計を始めた私たちは、二つ目標を立てました。一つは、何といっても寒い冬に備えるために「暖かい家」にすること。もう一つは、「小さいけれども広い家」というものです。
「小さくて広い」という意味は「コストを抑えるために、家のボリュームを小さく」するけれど、「中にいると広く感じる」ようにする、ということ。一体どうすれば、それが実現できるでしょうか?
私たちはまず、家を「小さく」するために、1階部分の平面を、車庫を除いて7.2m×7.2m(15.7坪)に抑え、その替わりに建物を3階建てにしました。その理由は、例えば今回のように延べ床面積30~40坪くらいの家を作るなら、平屋より2階建て、さらに、2階建てより3階建てにした方が「家が小さく」なると考えたからです。
同じ面積なのにどうして小さくなるの!?
種明かしは単純です。その理由は、中身が同じ大きさなら「平たい箱」よりも「立方体」に近い形のほうが、「表面積」が少し小さくなるから。表面積が小さい、ということは「屋根、基礎が少なくて済む」ということ。つまり、ローコストにつながります。それだけでなく「表面積が小さいこと」には、もう一つ大事な意味もあります。
それは、冬の室内環境です。表面積が小さければ「寒い外の空気に触れる部分が少ない」ことになります。つまり、より少ないエネルギーで、家を暖かくできるはずなのです。
こうして、広い敷地の中央に3階建ての家がポツンと据えられた、可愛らしい外観ができあがりました。親しみやすいのに、まわりの家とは少し違う、独特のデザインです。建物の周囲には、「東の庭」「南の庭」「西の庭」「北の庭」という名前の、4つの外部空間ができました。
どうやって広い家にする?
建物が「小さい」からといって、室内が狭くなっては意味がありません。いよいよ次は、「どうやって室内を広くするか?」に挑戦です。設計を進める上で私たちがイメージした「暖かな家」は、単に温度が暖かいことを意味するだけでなく、仲の良い施主家族にふさわしい、「一体感のある内部空間」でした。例えば1階のキッチンで料理をしているお母さんとリビングにいるお父さんが、お互いに気配を感じることができ、さらに3階の子供部屋の娘さんにまで、吹抜け越しに直接声を掛けられるような、そんな家です。
そこで私たちはまず、家の外側の「殻」、つまり屋根や外壁には十分な厚みを持たせてしっかりと断熱する一方、家の内側の、断熱する必要のない2・3階の床は、木の梁(はり)の上に合板とフローリングを張っただけの、簡素な薄い床にしました。床を支えている木の梁は、下の階から直に見えています。
また一体感のある内部空間の工夫としては、家中のあちこちに大小さまざまな吹抜けを作って上下の階を空間的につなげ、お互いに見えるようにしたり、一般的には壁やドアで隔てられる寝室は、3枚の引戸で仕切るだけにして、引戸を開け放てばホールと一体になるようにしました。
こうして、外の寒さからは「厚い殻」でしっかり守られながら、家の中には少しずつ高さの異なる幾つものフロアがあり、それが吹抜け越しに互いにつながっている、独特のインテリアデザインができ上がりました。
次ページでは、吹抜けが特徴的なこの住宅の暖房について考えます。