エッセイストとして活躍している中川ちえさん。
彼女と話をしていると、いつの間にか食べ物の話題が中心になります。
「○○で食べたお魚が本当に忘れられなくて・・・」
「このりんごは蜜がたっぷり詰まってて、すごく美味しいの」
「この間お土産にもらったおせんべいがね・・・」
そして気がつけば、お皿にはお菓子が盛られ、温かいお茶が注がれ、
のんびりとした風景の中で、おしゃべりは続きます。
取材のつもりだったのに、なぜかお菓子屋の住所を必死でメモする私。
ちえさんの回りには、いつも美味しい食べ物と、素晴らしい友人、
そして楽しいおしゃべりが溢れているように思います。
そんなちえさんが、器と生活道具を扱うお店をオープンしました。
お店外観。in-kyoの文字が控えめに・・・。
おばあちゃんの家のような居心地良さ
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どこか楽しそうなざわめきを感じるうつわたち
お店があるのは蔵前。あまり聞き慣れない場所かもしれません。
ちょっと行けば浅草、そして昔ながらの問屋街に囲まれたエリアです。
ちえさんのお店へ行く途中には、ちょっと懐かしい感じのおもちゃを
卸す、玩具問屋がいくつもありました。
すぐ先には隅田川が流れ、お相撲さんが自転車に乗って、颯爽と走っていきます。
お店の窓からは幼稚園が見え、子どもたちのはしゃぐ声が
ささやかに聞こえてきます。
「近所には、古くて窓のかわいい教会もありますよ。
問屋のおじさんが興味津々にふらりと入って声かけてくれたりして、
人の距離が近い街だなあ、と感じます。
町内の餅つき大会に誘われたこともありましたよ(笑)」。
ちえさんのニコニコ笑顔を見ていたら、”アルカイック・スマイル”
を思い出してしまいました。このお店は、みんなを大らかに受け入れてくれる、温かい団らんの場。
そこに集う道具たちは、やっぱり人の顔が見えるものたちです。
手に触れて、心地良い質感を味わってください。
「in-kyo」という店名は「隠居」からきたもの。
ちえさんのお祖母さんが実際に寝起きしていた、古い”離れ”のイメージです。
早寝早起きで足腰が丈夫で、働き者だったお祖母さんへの
大切な記憶に、自分のルーツを重ね合わせて名付けました。
そしてロゴに使った手書き文字は、お母さんに書いてもらったもの。
家族とのつながり、先祖とのつながり、人と人とのつながり。
ちえさんが大事にしている、暮らしのかけらがほんのりと、端々に散りばめられています。
ぼんやりと思い続けていたことが、出会い、つながる
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柔らかな銀彩。小さなステージのような器。
この場所は、元靴クリームの工場だった場所。
頭の上に設けられた鉄筋の棚や、たまに降りてくることもあるらしい(?!)フォークリフト
はそのまま残されています。
コンクリート打ちっ放しの天井と床はモダンな印象ですが、
テーブルや棚は自然素材。
ちえさんが家から持ってきたという古い家具もしっくりと馴染んでいます。
ところで、お店を始めることになったきっかけは?
「元々以前から、いつかお店をやりたいなあ、と思っていました。
実家を改装しようかとか、
半分趣味で物件を見たりもしていたんですよ。でももっと年をとってから、もう少し先のことだと思っていました。
そんなとき、たまたまのご縁でここの話がきて、まだ何も入っていない状態の物件を見に行ってみたら、
ムクムクと妄想が広がっていって・・・(笑)。
こういうことってタイミングなので、ありがたい出会いだったな、と思います」。
上は前川秀樹さん作のオリジナルランプ。
店内を改めてじっくり見渡すと、ほっこりするシーンがあちこちに。
次ページでは、お店で扱っている暮らし道具をご紹介します。