雑貨/ハンドクラフト・工芸

島根県 出西窯のうつわ

民藝の心を受け継いだ窯元、出西窯を訪ねました。緑に囲まれた穏やかな場所で、豊かな気持ちになれそうな、生き生きとした器が作られていました。

江澤 香織

執筆者:江澤 香織

雑貨ガイド



看板
島根県へ行ってきました。

島根県の出雲から、車で10分くらいのところにある、出西窯を訪ねました。 出西窯は1947年、5名の若者たちによって開かれた窯元です。 しかし当時、陶芸の経験はまだ浅かった若者たち。次第に進む道に迷いが出てきたとき、 柳宗悦の著「私の念願」と出会います。その後、河井寛次郎、浜田庄司、 バーナード・リーチ等々、民藝運動の中心人物たちとの交流を経て、自分たちの目指すもの、 「用の美」を確立していきました。

まだ人気の少ない朝一番に出雲大社でお参りをし、”善い気”をまとったような気分でそのまま出発! 山のふもとにぱあっと広がる田畑。おいしい空気。清々しく爽やかな風景の中、 のんびりと大らかに立ち並ぶ、工房や展示館が現れてきました。 そしてその脇には壺や器がぽつぽつと無造作に置かれ、 のどかで素朴でつつましい、温かく豊かな暮らしが伺われました。

地元の材料を使い、土作りから全てを行う

左:登り窯。右:工房の一角。
駐車場で車を降りたら、わっと走り出したい気分になりましたが、 どうにか気持ちを落ち着けて、まずは工房を見学。土作りから始まり、 焼き物作りの一貫を全て同じ工房内で行っている窯元は、 今ではそうそうないのだそうです。 最初に見学した土作りの現場には、粘土を落ち着かせるための素焼きの鉢が棚にずらりと並び、 大きくて四角い、お風呂のようなコンクリート製の貯水槽の中に、たっぷりの粘土が寝かされていました。 採掘してきた土は、ある程度寄り分け、水に浸すと、粒子の大きさによって層になるため、粘土だけを別の槽に移してしばらく置きます。 そして粘土が底に沈んだら、透明なうわ水だけを捨てます。できた粘土は水分を調整し、 足で何度も土踏みした後、1年以上寝かしておくのだそうです。 長く時間をかけた丁寧な作業は、土作りには欠かせない基本の工程なのだそうです。

次に行った別の棟には、レンガを積み上げた登り窯がどーんとそびえ、その横にはガス窯と電気釜も並んでいました。 登り窯に火を入れるのは年に3,4回とのこと。2昼夜寝ずの作業で薪をくべる重労働。 しかし窯出しは陶工にとって最高の喜びの瞬間ともいわれます。

窯の隣りの棟は工房で、朝早くから職人たちは黙々と作業に没頭していました。 工房内は誰でも自由に見学ができ、若い職人も数名いて、 気さくに質問に応じてくれました。

店内
すっきりと無駄がなく、素直で心地良い風情のうつわたち。


工房の隣りには、「無自性館」と呼ばれる展示販売館があります。 無垢の木の温もりが気持ちよく、自然光を存分に取り入れた吹き抜けの2階建て。 開放的で清々しい空間のそこかしこに、器がぎっしりと並んでいます。 奇をてらうことなく、伸び伸びと健やかで全うな器。 しかも、こんなにたくさんの種類があったとは(しかも手頃なお値段!)。 東京で目にしていたのは、ほんの一部だったのでした。

お皿やカップはもちろん、お鍋に急須に徳利に・・・。 しゅっとした姿の美しいピッチャーや、温かみのあるグラタン皿、種類豊富なティーカップも並んでいます(目が泳ぎます)。 もう買わないつもりだったはずが、見れば見るほどジワジワと惹き込まれ、 これは使ってみるべきでは・・・、あーにもこーにも使えるし・・・、 と都合のよい解釈が頭の中をぐるぐる巡ります。 使う姿を思い浮かべてリアリティを高めるほど、物欲も高まります。 日常的で親しみやすく、素直で大らかな器。 楽しげな妄想にふわふわ酔いながら、気づけばしっかりと手に器が抱えられていました。

カフェスペース
フリーのカフェスペース。出西の器でお茶が飲めます。


次ページでは、出西窯で出会ったある器をご紹介します。
工房と登り窯
  • 1
  • 2
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます