ハウスメーカーに対する既成概念を排除しよう
我が国の住まいづくりの担い手は、大きく「ハウスメーカー」、「地域ビルダー(工務店など)」、「建築設計事務所」に分かれます。今回の記事では、このうちハウスメーカーについて特徴について解説します。その定義は必ずしも定まっていませんが、一般的には企業規模が大きく、総合的な事業展開をしている住宅事業者と位置づけられているようです。ただ、その中でもそれぞれの事業者に様々な特徴があり、把握することがより良い住まいづくりにつながると考えられます。ハウスメーカーには、規模や総合力のほかに以下のようなイメージがあると思われます。
<好意的なイメージ>
・信頼できる
・品質が良い
・先進性がある…など
<否定的なイメージ>
・個性的でない
・自由度が少ない
・融通が利かない…など
ただ、これらは、一昔前に作られた既成概念。それを一度取り払い、フラットな視点を持つことだと私は考えます。というのも、ここ20年ほどでハウスメーカーと目される事業者の中身が大きく変わってきたからです。
高価格帯からローコスト帯まで様々な企業が存在
TVのCMなどでおなじみの有名な企業はもちろんのこと、近年は1棟あたりの建物価格が1000万円を下回るような、いわゆるローコストハウスメーカーと呼ばれる企業もこのカテゴリーに含まれることがあります。ちなみに、知名度が高い「大手ハウスメーカー」の多くは現在、平均の建物価格が3000万円超になっています。その一方で、総額1500万円~2000万円程度の分譲住宅を中心に事業を展開する企業もあります。
こうした事実を知ると、一概にハウスメーカーとひとくくりにされがちな住宅事業者たちに様々な持ち味があり、そしてバラエティーに富んだカテゴリーであるのか、その一端が理解できると思われます。
大手ハウスメーカーの中には長く事業を継続している企業もある。写真は約50年前に建てられた積水ハウスの創業当時の商品「セキスイハウスA型」。別荘として、まだ現役で使用されている(クリックすると拡大します)
言葉を換えると、ハウスメーカーは時代の変化に対応し、その姿と住宅供給のかたちを変え、そして新たな事業者が参入してきたのです。これは私たちのニーズが多様化する中で、それぞれの持ち味を生かした棲み分けが行われているともいえるかもしれません。
大手には事業の多角化を進める動きが活発化
さて、ここまでご理解いただいた上で、皆さんがハウスメーカーと聞いてすぐにイメージされる大手ハウスメーカーの特徴に絞って話を進めていきます。このカテゴリーも、事業者の内容は大変様々です。また、事業内容も注文住宅や分譲住宅に特化してる事業者のほか、賃貸住宅など幅広い展開をしているハウスメーカーもあります。住宅業界で最大手とされる大和ハウス工業は、商業・流通施設の建築なども含めゼネコンともみられる側面があります。
近年は海外で住宅供給を行うハウスメーカーも増えてきました。これらも、少子高齢化を主とする住宅需要の減少に対応し、ハウスメーカーが事業の多角化を行い、生き残りを図ろうとしている事例の一つです。
「画一的」ではなくなったプレハブ住宅
中でも特徴的なのが、地域ビルダーには存在しない、工場で住宅部材を生産する、いわゆる「プレハブ住宅」の事業者があることです。工場を持つことは大規模な資金が必要なので、大手に絞られるのです。プレハブと聞くと「画一的」とイメージする方が多いと思いますが、そんなことはありません。それは、例えば私たちの親世代が住宅取得をしていた頃の話で、確かに企画(規格)型住宅が主流で、プランは画一的なものが多かったのは間違いありません。
それは住宅不足の時代に対応するためでした。しかし、今や住宅は量から質の時代となり、消費者の価値観も多様です。それらに対応するため、大手ハウスメーカーでは自由設計、邸別設計が主流となっています。
プレハブ住宅にはこのほか、工場で大部分の工事を行うユニット工法があるなど、住宅の建設の仕方(工法)もそれぞれでユニークな手法が採用されています。また、構造材も木(木造軸組とツーバイフォー)、鉄(軽量鉄骨、重量鉄骨)、コンクリートと様々です。
例えば木材と木材、鉄骨材と鉄骨材を接合する一つひとつの技術が全てオリジナルであり、他社には採り入れられないものなのです。しかも、工法や素材の信頼性はそれぞれが実物大の建物で実験して検証しているケースもあります。これはプレハブ系に限ったことではありませんが。
ZEHなど最先端の住まいづくりを推進
大手ハウスメーカーは最先端技術の導入に積極的なグループでもあります。その事例の一つにZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)があります。これからの新築住宅のスタンダードとされるものですが、多くが積極的な取り組みをしています。有力ハウスメーカーの一つである積水ハウスを例に取ると、ZEH達成率は2017年上期時点で新築住宅の79%となっています。この他のハウスメーカーでも、狭小建物や3階建てなどでもZEHとできるよう積極的な技術対応をしています。
ちなみに、画一的というイメージで「ハウスメーカーは全国で同じような建物を建てている」と勘違いしている方がいますが、そうではありません。現在、断熱区分は全国で8区分となっていますが、それに合わせた断熱仕様が採り入れられるのが普通です。
ハウスメーカーの住まいはオーバースペックか
耐震性能についても言及しておきます。大手ハウスメーカーの建物について「オーバスペックである」と指摘されることがあります。しかし、これは比較的築浅の住宅が大きな被害を受けた熊本地震の事例などから、否定すべきだと私は考えています。品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)には1~3の等級があり、等級1は数百年に一度程度の地震(震度6強から7)に対しても倒壊や崩壊しないレベルです。通常の住まいづくりでは施主が等級を決めることが一般的です。
一方で、大手ハウスメーカーの建物では、等級1の1.5倍の地震が起きても耐えられるレベルである等級3、あるいはそれ以上の性能が普通。これがオーバースペックと表現されることがあるわけです。
ただ、万が一の地震においても安心・安全を確保できるようにするのは住宅事業者としては当然であり、やりすぎはないと思われます。ちなみに、また、2階建て住宅には法律上、構造計算が義務づけられていませんが、大手ハウスメーカーの多くではこれが行われることも付記しておきます。
最近は住宅を含む建設現場の人不足が深刻化しつつある。腕の良い大工や職人の確保ができるかできないかは、住宅の品質に大きく影響するため、依頼先選びでは重要なチェックポイントとしてもらいたい(クリックすると拡大します)
耐震性などの性能を確保するものに施工品質があります。これについても、大手ハウスメーカーは比較的信頼性があります。それは工事をする大工や職人をしっかりと確保し、施工の仕組みをしっかりと構築し、人材の養成にも力を入れているケースが多いからです。
担当者のノウハウに差が大きいことに注意しよう
ところで、ハウスメーカーにはマイナス面もないわけではありません。それは皆さんが出会う担当者によって差が大きいこと。住宅商品の質はある程度均一ですが、担当者により提案内容の善し悪しに差が生まれ、それが住まいへの満足度の高さを左右するのです。また、営業や設計などの担当者が転勤や離職をすることで、ハウスメーカーとのつながりが薄れたり、最悪のケースでは断たれてしまうこともあります。ハウスメーカーには大抵、アフターサービス部門がありますが、それでもそうなってしまうケースがあります。
ハウスメーカーというより担当者を信頼して住まいづくり、あるいは依頼先を決定することが多いもの。その担当者が不在になるのは結構な影響が出ます。住宅は完成するまでより完成した後の方が長いわけですから、そんなことにも留意したいものです。
ですから、離職率の高さなどをチェックしておくことも、ハウスメーカーで住まいづくりをすることにおいては重要ではないでしょうか。このあたりはハウスメーカーの間でかなり違いがあるのが実情ですから。
「企業は人なり」といいます。人には様々な性格がありますし、それぞれに得意不得意があります。営業担当者などの人に着目して、住まいづくりを進めることも大切な視点です。例えば、モデルハウスで社員の雰囲気をチェックし、それを依頼先検討の材料としても良いかもしれませんね。
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