意外とどこにあるかも知られていないすい臓。胃のすぐ下にあるおたまじゃくし型の臓器です。
意外と知らない「すい臓」のコト
胃のすぐ下、小腸との間に挟まるようにして収まっているのがすい臓です。大きさは小振りのバナナぐらいで、おたまじゃくしのような形をしています。
「膵」の字は日本でできた漢字だそうで、月(にくづき)は肉の簡単な形で、膵の月(にくづき)を取った部分は「あつまり」を意味します。つまり膵は「すべて肉」ということです。
すい臓には、十二指腸へ膵液を外分泌する消化器官としての働きと、インスリンやグルカゴンなどのホルモンを血液中に出している内分泌腺としての働きの2つの役割を持っています。
内分泌腺はすい臓の中に無数に分散している微細な点のようなもので、初めて顕微鏡で観察したのがドイツのランゲルハウスです。そのころはまだ内分泌という考えがなかったのでこの細胞集団の果たしている意味は分かりませんでした。20年以上もたってからこれが内分泌腺ではないかと考えたフランス人学者がこれを「ランゲルハンスの島」と呼んだのです。今は普通に「膵島」と書くことが多くなりました。
この膵島は一つのすい臓内に100万個ぐらいはあるのですが、全部を集めてもすい臓の1~2%にしかなりません。
この小さな膵島の中にもたくさんの細胞があります。その75~80%がインスリンを分泌するベータ細胞です。血糖値が下がった時に肝臓に作用してブドウ糖を放出させるホルモン「グルカゴン」もこの膵島の別の細胞から分泌されます。
すい膵臓は食物を消化吸収するための消化酵素を作ったり、血糖値を一定に保つホルモンを分泌するとても大切な臓器ですね。
糖尿病とすい臓
1型糖尿病は自己免疫の誤作動でインスリンを作るベータ細胞を壊してしまう疾患です。インスリンが無ければ筋肉や脂肪細胞にブドウ糖を取り込めなくなるので、1型糖尿病の人は最初からインスリンを注射して補う必要があります。2型糖尿病の人はインスリンを作れるのですが、遺伝や肥満によってからだがインスリンを効果的に使えなくなってしまう疾患です。そのためインスリンを過大に分泌するようになって、やがてベータ細胞が壊れ始めてしまいます。
2型糖尿病のインスリン抵抗性や膵島ベータ細胞の衰えの機序は完全には解明されていませんが、不足するインスリン分泌を強める経口薬やインスリン抵抗性改善薬、あるいはインスリン注射を加えながら血糖コントロールに努めます。
膵島を移植しても糖尿病は治らない?
この疑問は生涯にわたってインスリン注射が不可欠な1型糖尿病者に切実なものです。10年程前、ドナー2人分から分離した膵島100万個を1型糖尿病者に移植してインスリンフリーになったカナダのトロント大学の膵島移植手術が世界中に大きな希望を与えました。
しかし、大金をかけて移植した膵島が1~2年ぐらいしか働かなかったり、高価で副作用のある免疫抑制剤を飲み続けなくてはならないこと、ドナーと患者との適合性、膵島提供の不確実性などの問題もあってこのところ少し話題がありません。
膵臓全部あるいは膵臓と腎臓を一緒に移植する手術は成功率が高いのですが、ドナーの多いアメリカでさえ年間400~500例しか行われていないようです。アメリカでは毎年3万人以上の人が新たに1型糖尿病になっているのですからとても及びません。
現在、自分のステムセル(幹細胞)からベータ細胞を作る研究が進んでいます。これなら免疫抑制剤から開放されますから光明があります。しかし1型糖尿病は自分の免疫システムが自分自身のベータ細胞を攻撃するのですから、新しいベータ細胞をどう守るかはまだ未解決です。
連続式血糖測定器とインスリンポンプを組み合わせた人工膵臓はかなり期待できそうです。からだのパーフェクトな血糖コントロールにどのくらい近づけられるか、ソフト開発が鍵となります。
この小さな内臓の、全部集めても1~2gしかならない細胞の塊が私の人生を全うさせているのと知れば、せめて食べ過ぎだけは控える気になりますね。
□ 関連リンク
MedlinePlus Medical Encyclopedia:Pancreas transplant - series: Normal anatomy: