脳・神経の病気はさまざまな症状が出現します
身体の司令塔である脳・神経が病気になると、頭痛だけではなく、手が動かなくなったり、言葉がしゃべれなくなったり、物忘れをしたり、頭以外のさまざまな場所に症状が出現します。
患者さんが自覚できる症状から、身体のどこに障害が起きているかをまとめました。
頭痛
■具体的な症状- こめかみがズキズキする
- 後頭部が重苦しい感じがする
- 突然バットで殴られたような痛みがある
脳・神経の病気の中で一番多い症状が頭痛です。頭痛の85%はズキズキとした痛みである片頭痛、重苦しい痛みである緊張形頭痛などの一般的な頭痛と言われていますが、「今までに経験したことのない、突然に始まった激しい頭痛」の場合は、くも膜下出血が強く疑われますので、すぐに病院を受診しましょう。くも膜下出血の場合は、首を前に曲げられないほど痛みが強い項部硬直(こうぶこうちょく)と呼ばれる症状も起こります。
頭痛とともに発熱を伴う場合は、細菌やウイルスが脳に入り込む髄膜炎という病気の可能性もあります。
手足が動かない
■具体的な症状- お箸がうまく使えない
- 歯ブラシがうまく使えない
- よくつまづく
- 片足を引きずって歩く など
手足がうまく動かない場合、大脳から脊髄までさまざまな原因が考えられます。片側の手足のみに症状が起きた場合は大脳の障害、両手に同じような症状が起きた場合は脊髄の病気の可能性が高いといえます。
言葉が出ない
■具体的な症状- 名前を思いつくが言えない
- テレビのリモコンを使えない
- 何をしゃべっているか周りの人間が理解が出来ない など
■考えられる原因
言語中枢に異常がある場合、言葉が出てこないといった症状が起こります。人間の言語中枢は、前頭葉にあるブローカ野と側頭葉にあるウェルニッケ野にあります。言語中枢は、大多数の人で大脳の左半球に存在するため、言語障害に加えて、右側の手足の麻痺を伴うことが多いです。
においや味がわからない
■具体的な症状- 料理のときに調味料を間違える
- 味の好みが変わった
- 味付けが濃くなった など
においを感じる嗅神経、味を感じる顔面神経、前頭葉などの障害で引き起こされます。このような症状は、脳の腫瘍による場合と、頭の怪我による場合が多いです。また、臭いや味の障害は鼻の病気でも出現しますので、脳・神経に異常がない場合は、耳鼻科を受診していただくこともあります。
ものが二重に見える・見える範囲が欠ける
■具体的な症状- 新聞の一部分が見えない
- 片目で見ると普通だが、両方の目で見るとぼやける など
目を動かす神経(動眼神経・滑車神経・外転神経)、後頭葉などの障害で引き起こされます。しかし、視界がぼやけたり、視力が落ちたりする場合は、目の病気の可能性も考えましょう。
目から入った光は視神経を通り、そして後頭葉で処理されます。ですから、この経路が障害を受けると、見える範囲がかけてしまうのです。一般に言われる視力低下は、脳・神経の異常ではなく、眼の中にあるレンズや網膜などの異常であることが多いので、眼科を受診しましょう。
顔の動きが左と右で違う
■具体的な症状- 片目だけ目が開かない
- まばたきが出来ない
- 口が曲がったように見える
- 片側の口から水をこぼす など
まぶたの動きをつかさどる動眼神経、顔の表情をつくる顔面神経、脳幹などの障害が考えられます。突然、目が閉じられなくなったり、口の形が曲がったり、片側の顔が動かなくなる病気に突発性顔面神経麻痺(ベル麻痺)がありますが、これは適切な治療をすぐに受けると2~3ヶ月で完治することが多いので、最寄の脳神経外科、神経内科を受診してください。
逆に、どんなにがんばっても片側の目だけ開かなくなった場合は、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤が原因の場合がありますので、すぐにMRIの撮影できる脳神経外科を受診してください。
顔が痛い
■具体的な症状- 片側の顔が瞬間的に痛む
- 痛みのため歯を磨けない など
顔の感覚をつかさどる三叉神経の障害が考えられます。また、鼻の中に膿がたまる蓄膿症(副鼻腔炎)も顔面の痛みや頭痛を訴えることがあります。
めまい
■具体的な症状- 起き上がったときやうがいをするときにくらくらする
- まっすぐ歩けない など
耳の働きをつかさどる内耳神経、小脳、脳幹、椎骨動脈の病気が考えられます。椎骨動脈は小脳や脳幹に分布している血管で、血流不全が引き起こされると、私たちはめまいを自覚します。めまいの中でも、グルグル回るような感覚を引き起こすめものは、脳・神経の病気というよりは、耳の原因(内耳障害)であることが多いですので、まずは耳鼻科を受診してください。
のどがかすれる、飲み込めない
■具体的な症状- 食事中に良くむせる
- かすれ声になった
- のどに指を入れても吐けない など
のどの動きをつかさどる神経(舌咽神経・迷走神経)の病気が考えられます。このような症状が出現する場合は、脳梗塞などの脳血管障害のことが多いのですが、ごくまれに脳腫瘍が原因の場合もありますので、MRIの撮影できる脳神経外科を受診してください。また、パーキンソン病でも、飲み込みが悪くなることがよくあります。
物忘れがひどい
■具体的な症状- 昨日の食事が思い出せない
- 同じ話を何回もする
- 性格が明らかに変わった など
前頭葉、海馬など記憶をつかさどる脳が障害を受けると私たちは記憶力が低下します。しかし、記憶の回路は感情によって影響を受けやすいので、物忘れ=認知症というわけではありません。
認知症の多くは自覚症状よりも、家族や友人などが記憶力の低下に気付くことが多いので、明らかに上記のような症状が出現した人を見かけたら脳神経外科、神経内科、精神科を受診してください。「物忘れ外来」といった診療科を設けている病院もあります。
また、意識はしっかりと保たれているにも関わらず、突然「ここはどこ?いつから自分はここにいるのだろう」、「今日は何曜日?」、「さっき自分は何をしていた?」などの質問をくり返すようになる「一過性全健忘」という病気があります。原因はいまだによくわかっていませんが、多くの場合は24時間以内に完全回復します。
手が震える
■具体的な症状- 字がうまく書けない
- コップの水をこぼしてしまう など
大脳基底核、中脳、小脳など、運動の調節を行う脳・神経の障害を受けると、手の震えが出現します。脳・神経の病気だけではなく、肝臓の病気や甲状腺ホルモンの異常でも手の震えが出現することがあるので、内科への受診をしましょう。
意識がなくなる
■具体的な症状- いきなり魂が抜けたようになる
- 繰り返し痙攣する など
大脳の広範な障害により、私たちは意識を失うことがあります。その代表的な病気がてんかんです。多くは小児期~青年期にはじめて発症することが多いですが、中年期以降に初めて発症することもあります。また、意識がなくなる症状は脳・神経の病気だけではなく、脳・神経への血流が低下することによって引き起こされることがあるので、心臓や首の血管の検査が必要になります。
脳・神経の病気では、実に様々な症状が起きます。心配な症状があれば、最寄の脳神経外科・神経内科を受診しましょう。