がんとアレルギーの共通点……「免疫システムの不調」が原因で起こる疾患
アレルギーとがんは全く別の病気ですが、発症のメカニズムには実は共通点があります
花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギーと、さまざまな「がん」。いずれも治療が大変なことも多い疾患ですが、それぞれの性質はずいぶんと異なります。
実はこれらの疾患の発症のメカニズムには、「免疫システムの不調」という共通点があることをご存知でしょうか?
あまり知られていないがんとアレルギーの意外な関係についてお話します。
<目次>
がんの原因は免疫システムの低下による、ミスコピーされた細胞の増加
私達の体では、常に細胞の新陳代謝が行われています。皮膚がその典型ですが、次々に新しい細胞が生まれてきて、表皮は垢となって脱落していきます。新しい細胞といっても、遺伝子の情報に基づいて作られる、いわば、コピーです。しかし、さまざまな理由で細胞のミスコピーが起こり、これらががんのもとになっています。
60兆個と言われる細胞の中で、1日あたり2000~5000個の細胞がミスコピーとして作られていると考えられていますが、これらの細胞は、自分の免疫システムが見つけ出してやっつけてくれています。言うなれば、ミスコピーは一つ残らず消去されているわけです。
しかし、もし、このミスコピーが1つでも残ってしまうと、倍々に増えていき、大きさにして1cm、細胞の数にして10億個程度になると、レントゲンや超音波などで発見されるようになります。
つまり、がんは、自己免疫力が低下し、ミスコピーした細胞を攻撃しきれない時に発生すると考えることができます。
アレルギーの原因は免疫システムのはたらきすぎ……免疫が自分自身を攻撃
免疫細胞が攻撃の手を弱めてしまっているときにがんが発生するとすれば、攻撃しすぎてしまっているのがアレルギーと考えることができます。たとえば、アトピー性皮膚炎は、アレルギー疾患の代表ですが、免疫システムが、本来は攻撃する必要のない自分自身の皮膚を攻撃してしまっていることによります。いわば、免疫システムが過敏になっている状態と言えるでしょう。
いわゆる「自己免疫疾患」と呼ばれるものも、自分の免疫システムが自分自身の甲状腺や肝臓の細胞を攻撃し、機能が低下してしまう、ということがおおまかなメカニズムです。
なぜ、自分の細胞を攻撃してしまうのかは、まだ完全には解明されていないので、アレルギーも含めた自己免疫疾患は、治療に難渋するケースが圧倒的に多いのが現状です。
免疫システムが適切にはたらけば、がんやアレルギー予防に役立つ
免疫システムが弱まれば、ミスコピーでできたがん細胞が見逃されてしまいます。その一方で、免疫システムが過敏になると、自分の細胞を攻撃してしまいアレルギーや自己免疫疾患のもとになります。「花粉症などのアレルギーがあると、がんになりにくい」と言われることがあるのはそのためでしょう。これは現状では俗説ですが、免疫のはたらきから考えると、科学的にも関連は否定できません。しかしもちろん「花粉症だったのに、がんになった」ということは珍しくありませんし、必ずしもその傾向があると言い切れるものではありません。いずれにしても健康のために大切なのは、「免疫システムが適切な強さではたらくこと」です。免疫システムがうまく調整された状態であれば、がん予防のみならず、アレルギー予防にも役立つと考えられます。
免疫システムの調整のスイッチがどこにあるのかは、現時点ではまだ明らかにされていませんが、近年の研究では、小腸のパイエル板というリンパ組織などがその候補として考えられています。
和食がアレルギーに良いとか、食物繊維ががんに良いということは、経験的に、また疫学的に知られていますが、腸内細菌のバランスが腸を介して免疫系に働きかけていることも理由の一つではないかと考えられています。
アレルギーに乳酸菌や、がんにアガリクスなど、現在はあまりメカニズムが明らかになっていない機能性食品やサプリメントなども、今後、免疫システムの解明が進めば、非常に明快に説明がつく日も、そう遠くないかも知れません。
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